第8話 妻への畏怖
おばあの一周忌が済むと、僕と澪は結婚した。
村長から県会議員になっていた義父さんによると、おばあは村の人に澪は病気で遠くの病院に入院したと言ったそうだ。
村の人たちはその言葉に逆らうことはなかった。
おばあは一人で澪の遺体を運び、あの山に埋めたらしい。
そして、澪の父母には必ず澪は戻ってくると、言っていたそうだ。
僕と澪の結婚生活はおおむね順調だった。
結婚して3年目には長男が産まれ、その2年後に長女が産まれた。
僕は税理士事務所を継がずに、衆議院議員に転身した義父の地元秘書になった。
そのころから、澪は不思議なことを言い出すようになった。
「お父さんが党に提案しようとしている法案の資料が足りないから揃えておいて」とか「領収書が足りない。ちゃんと確認して」とか言って、僕に指示をする。
あとで、その指示が的確だったと分かる。
澪は専業主婦だ。
家にいて子どもの面倒を見たり家事をしている。
東京や地元の事務所には行ったこともないはずだ。それなのにどうして分かるのだろう。
義父さんが澪に伝えて、僕に指示を出させたんだということで自分を納得させた。
数年経つと、義父さんは政界を引退し、僕が後継者として立候補することになった。
そのタイミングを狙っていたかのように地元の人気ユーチュウーバーが僕の対立候補として立候補してきた。
新聞や週刊誌の分析では大激戦。
僕は気が気でなかった。
ところが奇跡が起きた。
告示直前に、対立候補が心臓麻痺で急死した。
他に有力候補がいないなか、僕は圧倒的な得票数で当選した。
後援者が開いてくれた当選パーティーで「ツイてたな」と、呟いてしまった。
人の死を喜ぶようなことは最低だが、思わず出た本音だった。
「ツキなんかじゃないわ」
澪が笑った。
その笑い顔を見て、鳥肌が立った。
その顔は夢に出てきたおばあにそっくりだった。
おばあが死んで澪は生き返った。
澪におばあが乗り移ったのではないだろうか。
母さんの言葉が甦る。
『おばあは人を呪い殺すことができる』
そう考えれば、今度のことも納得できる。
僕は支援者と、笑顔で話している澪の美しい顔を畏怖の目で見ていた。
僕の妻は元亡者 青山 忠義 @josef
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