第06話:心の準備はできてません!

 えっと……お邪魔します。

 き、緊張しますね。深呼吸しないと。すぅ……はぁ……すぅ……はぁ……。だ、だ、だ、大丈夫です! まさか急に先輩のお家に来ることになるだなんて思っていなくて!

 ……わぁ、ここが先輩のお部屋なんですね。なんだかとっても先輩っぽいですし、なんだか先輩の匂いがする気がします。

 え? 「そんなに舐め回すように部屋を観察されると恥ずかしい」ですか? べ、べ、べ、別にそんな観察なんてしていませんし、他の女性の痕跡を探したりなんてしてませんよ! ホントですよ! 別に私はそんな、先輩が私以外の女性を部屋に連れ込んでいようが気になったりしませんし……。

 …………。

 ……他の女性を連れ込んだりしてませんよね? ……わぁ! うんうん、そうですか。連れ込んでいなければ良いんです。えへへ。


 ……あっ! これって前に私がプレゼントしたスノードームじゃないですか!

 えへへ、嬉しいなっ! いつも見えるところに飾っていてくれてるんですね。

 先輩もスノードームがお好きなんですか? スノードームってすごく素敵ですよね! ドームの中に閉じ込められた日常のワンシーンに、きらきらと光る雪が舞い降る光景は、何回でも何時間でも眺めていられそうになります。先輩もそう思いませんか?

 ……できれば、今日みたいな素敵な1日も、切り取ってスノードームの中に閉じ込めてしまえれば、いつまでも何度でも眺めていられるのになぁ……。

 ……な、なーんて、冗談ですよー、冗談。

 …………。

 ……ゴメンなさい。嘘です。冗談なんかじゃないです。先輩と過ごした今日1日は、本当に、スノードームに閉じ込めてしまいたいくらい、すっごく素敵な1日だったんです。

 先輩にとって、今日1日はどんな日になりましたか? ……え? ホントですか!? 先輩も素敵な1日だって思っていてくれて嬉しいです!! えへへ。

 あ、ちょ、ちょっとゴメンなさい。こっちを見ないでもらえますか? 嬉しくて、嬉しすぎて、頬が緩みっぱなしで、今は先輩にお見せできるような表情じゃないので!

 すぅ……はぁ……すぅ……はぁ……。すぅ……はぁ……すぅ……はぁ……。

 も、もう大丈夫です……たぶん。お待たせしました。


 ……え? 「なんでずっと立っているのか」って?

 あ、はい、そうですよね、ずっと立っているのもおかしいですよね。それでは失礼して、す、座らせていただきます。

 ……え? 「なんで正座なのか?」って? それはなんと言いますか……緊張してて背筋を正さなきゃって感じていたり、服が雨で濡れているのでそのまま座るのは気がひけたりするというか何というか。

 体が濡れているならシャワーを浴びてくると良い……って、え!? えぇ!? シャ……シャワーですか!? そんなの難易度が高いですよ! 濡れた服の代わりに先輩の服を着ればいい、って彼シャツですか!? ハードルが上がりすぎて頭がくらくらしてきました。

 ……ま、まぁ、先輩がそんなに言うなら、シャワーをお借りしないこともないですけど。

 絶対に、絶対に覗かないでくださいよ! 振りとかじゃないですからね!!

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