第32話

「こやけちゃんは、あたしを殺せるの?」

「私なら貴女をスパッと殺す事もできるのです。しかし、貴女は絶を望んでいないはずでございます」

「ううん。ここなら死んでても生きてるようにいられるでしょ? ここは生きられなくなったものが生きてるんでしょ? それなら、あたしは死にたいわ。そうすれば……

「なるほど。なるほど。それは名案でございますね! 菜季さんは本当に勘が良いのでございます! 楽しいので歌いたくなったので、歌っておきます! はんげはらはれい、おつれらわぶおをろこく」

 りんりぃん――鈴の音が鳴って、こやけちゃんの左手に大きな鎌が握られてた。

 間近でじっくり見たら、骨があしらわれているデザインだと気付いた。何の骨かはわからない。わからなくても良いわ。知らなくても良い。知らないほうが良いこともあるって、景壱は言っていた。知らないほうが良いこともある。知ってしまったら、悪いこともある。あたしは、この森のことを知ってしまったから、ここにいる。おばあちゃんの注意をきちんと守っていない悪い子だから、ここにいる。

 遠足の行き先を聞いた時に、先輩に何度も言えば良かった。

 オカルト好きだとか言われても、何度も伝えたら良かった。あたしが言ってたら、誰も死ななくて済んだかもしれない。タケちゃんも、おばあちゃんも、死ななかった。

 誰も傷つかなかったかもしれない。葛乃さんも、弐色さんも、誰も。

 全部、全部、あたしが悪いんだわ。

 だから、あたしに罰を与えて欲しい。こやけちゃんは言っていた。

 あたしの罰は、死をもって償うことが妥当だと。

「これは、私の自慢の得物。正真正銘、死神の鎌デスサイズなのです。死神から譲り受けたとってもとっても希少な鎌なのでございますよ! この鎌は、肉体を刈り取ることよりも、精神を刈り取ることを得意とするのです。肉体はあくまで魂の器でございますから、その器と魂を切り離すものが、こちらの鎌となっているのでして、それはそれはもう、素晴らしい切れ味なのでございます。精神を刈り取ることを得意とすると言いましたが、肉体をスパスパするのも簡単にできるのでございますよ。私は腕が良いので、簡単に首をスパッと刎ねちゃえます。ウフフ。それはさておき、願いを叶えて差し上げましょう。寺分菜季さん、改めまして、ようこそ、夕焼けの里へ」

 こやけちゃんは、鎌を大きく振りかぶり、薙いだ――……。

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