第3話

「あれ、どうしたんです?」


 やたらと行列になっていたたこ焼きを買ってからグループに戻ると、少しだけグループ内が騒然としていた。


「ねーねーなぎっち、美織みおっち見なかった?」


「え、美織先輩?」


「そう、美織っち。 トイレに行くってさっき出ていったんだけど、帰ってこなくて。 スマホも鳴らしてるんだけどなー」


 出ない―、と何度も着信をタップしている。


「……もしかして、迷子になったとか?」


「これだけ人が多いと、迷子になる可能性もありそうだね」


 凪の言に答えるように部長もスマホを見つめつつ呟く。

 美織と話すどころか、美織がいなくなってしまった。

 彼女のことだから、迷子で泣いたりしている……といったことはあまり想像できないけれど、それでも心配になってしまう。

 何より、先輩がいなかったらコミュニケーションを取る以前の話である。

 目標の達成のしようもない。


「ど、どうしましょう?」


 若干テンパりつつ部長に尋ねる。

 せっかく部長からアドバイスももらったのに。

 しかし、そんな凪とは裏腹に部長は至極冷静だった。


「そうだね……凪とかだったら、「今から探しに行こう!」ってなるけど、あいつのことだから迷子になってても全然問題ないだろうし……まっ、その内スマホの通知にも気づくと思うから、大丈夫でしょ」


 案外軽かった。

 終わりになっても帰ってこなかったら、その時は探そうとみんなに呼びかける。


「トイレから迷子になったんだったら、案外近くにいるかもしれないしね」


「じゃあ、屋台を巡りながら美織っちを探すかー」


 そして周りも案外軽かった。

 部長の日頃の信頼度の高さもあってか、あっという間に屋台を巡りながら美織を探そうというムードが出来上がっていく。

 しかしそんな中、凪一人はソワソワしていた。美織が迷子になっているかもしれないのに、部長の提案はどこか悠長すぎるように思えたのだ。

 少し悩んだのち、おずおずと部長に尋ねる。


「あ、あの……部長。 私だけでも、探してきていいですか?」


 部長に意見するような提案。

 もしかしたら、彼女から嫌な顔をされてしまうかもしれない――それでも、凪は美織を探しに行きたかった。

 その提案に、灯里あかりは少し考えるような素振りを見せた後。


「……分かった。 じゃあ、美織を探してきて」


 満足したような顔でポンと軽く凪の背中を押した。


「ありがとうございます!」


 グループとは逆方向に向かう凪。

 そんな彼女に、灯里はお茶目に呟いた。


「……頑張るんだぞ」

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