第24話 堅い夫に柔和に突撃する妻

 今日は、みんなで、夕食。


 優と、翔と、いつも通り一樹をストーキングしていた美子ちゃんも、おいでよって声を掛けたら、普通に入ってきた。


 一樹のオムライス。


 かなり上機嫌で饒舌に語ったいたら、みんな来た。


 いつもお世話になってる桜川律子先生も呼んでしまった。


 で、みんなでワイワイと、食べてたんだけど、その途中に、あれ? って思った。



 そして、今は深夜。


 私は居間で、私のタブレットを開いて、「まとめサイト」家庭版を眺めていた。


 まとめサイト、よくある家庭版だから、浮気とか、嫁姑問題とか、そんな愚痴やら文句やら、経過だの結果なんかが書かれてるサイト。


 何かの参考にでもなればと思って、迷走した挙句たどり着いた場所。


 でも、まあ、参考になるやらならないやら……。


 少なくとも、大量の経験談から、やたらと胸を打つ奴やら、いやいや、それはないだろう的な、私にとって顧みれないものばかりで、でも、読み物としては面白い物が多かった。


 特に、自分の趣味を勝手に妻に捨てられた、鉄道模型の話はちょっと考えさせられた。


 いけない、いけない、今はこんなことしてる場合じゃないのよ。


 今の照明は落としてる、寝室からでも明かりは見えるから、気にして一樹の睡眠の質が悪くなるのは嫌だから、真っ暗な部屋で、タブレットの画面を見つめてる。


 一樹はとっくに布団の中。


 明日、翔に頼まれて、朝の5時からタイム係のお手伝いで、学校行くんだって。休みなのにね、私より翔のお手伝いの方が大事なんだ。


 ふーん。


 って、まあ、そこは怒ってるってところじゃないのよ。


 それはいいの。


 むしろ好都合なのよ。


 今は、ちょっと一樹と距離を置きたいってか、どうしてこうなったか考える時間が欲しいっていいうか……。


 なぜなら、どうもね、一樹ね、なんだか、私に怒ってるみたいなの。


 みんなで、ご飯を食べながら、それぞれ、優とりっちゃんと美子ちゃんと、翔ですら普通に会話してるのに、私と一樹の会話が無い事に気が付いたの。


 『なんで、あんな奴と二人っきりになったんだよ?』


 って優に言われたときくらい?



 その途中まではあったんだけど、優が、直塚の話を振ってきて、私がその話を下あたりから、突然、一樹との会話が消失したのよ。



 会話の中で、何回か話を振るけど、あれれ、会話が返ってこない?


 あれ? 一樹今、怒ってる?


 みんなが帰ってから、それは確信に変わったの。


 私がどんなに話しかけても、一樹返事しない。してくれない。



 誰かに、って言うものじゃなくて、その怒りは明確に私に向けられてう。


 基本ね、一樹って怒らいの。


 でも、偶に、極まれに怒るとしゃべらなくなっちゃうの。


 それって、きっと対象である私に文句を言ってしまいそうになるのを我慢してるの。


 で、自分の中で落としどころを探すのね。


 でも、長いの。


 前回はいつだったかなあ、ああ、そうだ、体育祭の時だね、優と一緒に夜の職員室に忍び込んで、確率3分の1な各チーム分けをね、名簿をいじって私と一樹を一緒にしようとしたんだよ。


 もちろん、何かを盗んだり、誰かを傷つけたりしたわけじゃないの。


 で、優がまた、そのことを楽し気に、そして自慢げに言うのよ。


 誰て、一樹に、「愛されてんな」っとかいうの。


 そしたら、一樹は、もう過去に類を見ないくらいに怒って、その時は、「なんでそんなことしたの?」って静かな口調で、あきらかに怒ってる口調で言うの。


 なんでよ! 一緒のチームになりたかっただけ! って文句言ったらさ、その後2週間くらい口をきいてくれなくなった。


 普通に家事とかご飯とか出してくれて、体育際のリレーで足をくじいたから、手当もしてもらって、家でも介護してもらったけど、しゃべらなくなってしまったの。


 つーん、って感じの無視じゃないんだけど、言ったらなんでもしてくれるんだけど、しゃべってくれないの、声が聞こえないの。


 もうね、さすがの私も、これにはキレたわね。


 怒ったわよ。


 文句も言った。


 地団駄も踏んだね、一樹の目の前で。


 でも一樹って頑固なの。


 私が何を言っても、どう取り繕っても、しゃべらないの。


 押しても引いても、優に頼んでも、一樹の親友な翔を呼んでも、私とだけは口を開いてくれないの。


 いなくなったりしないし、それ以外は全部、日常なんだけどね。


 結局、その後、許してはもらったけどね。


 もう、どうしていいかわからず、泣くしかない私を見て、一樹に滾々と説教されたけどね。


 その時、私、もう歓喜だったよ。


 ああ、一樹がしゃべってる。って、うれし泣きしたよ。


 で、一樹が言うには、結局、自分と一緒のチームになる程度の事で、夜の学校に忍び込むみたいな真似にご立腹だったわけだった。


 でも、それは犯罪まがいなことをしてる、って事実よりも、もしもそんなことしてバレたら、下手したら退学になってしまうリスクを心配、だから結局、私の事を心配してくれてたみたいなんだ。


 日頃ね、私、一樹には、いい大学出て、いいところ就職したい、って、未来の展望は話してるの、もちろん、一樹を主夫にして、一生涯家とその近隣に閉じ込めるっていうのは、まだ内緒。


 でも、その一部開示している夢が、学校にドロボーに入って内申ダダ下がるっていうリスクのあることを安易にしてしまった私に怒っていたの。


 んん?? あれ? ってことは、今回も私のことで、怒ってる???


 え?なんだろ? 


 ちょっと待って?


 私、今回、なにした?


 おかしいな、自分の中に明確になる答えがないのね。


 だからって、このタブレットに表示される画面の中、まとめサイト家庭版にも答えなんてあるわけもない。


 私は、タブレットの電源を落とすの。


 で、立ち上がるの。


 そして服を、パジャマを脱ぐの。


 マッ裸になるの。


 もうね、突撃しかないじゃん。


 堅くなな夫には柔らかく温か強襲するの。


 言葉にしてくれないなら、体で聞くわよ。


 真っ暗な居間で、一人裸で準備体操して、ちょっと息を整えたのち、私は突撃を敢行したの。
 


 決して性欲って訳じゃないから、仲良くできる行為なんだから。

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