14. 追放者の反逆戦②

14. 追放者の反逆戦②




 私は無防備にオリバーとアリシアの前に飛び出た。ミーユになんの考えがあるのか分からないけど、今はミーユを信じるしかない。一応相手の攻撃に備えて腰のショートソードを抜き構えをとる。


「さぁかかって来いっす!オレがどんな攻撃も防ぐっす!」


「うーん……」


 あれ?もしかしてこのまま動かなければ何も起きないのでは?よく考えたらあの2人は盾役と回復魔法要員だ。主に援護がメインの職で前線に出る必要はない。


「……ねぇ、まさかとは思うんだけど動かないつもり?」


「え!?いやいやそんなわけないじゃないすか!ただちょっとどうしようかなって思ってるだけっすよ」


 なんだ……無駄に焦ったじゃないか……。まあとりあえず相手が動いてくれないならこっちから動くしかないかな。とは言っても私の『相殺の調停キャンセラー』のスキルはあまり役に立たない。というか発動する必要がない。私のスキルが役に立たないと気づかれるのはまずい。


 よし、なら考えがある。ここは余裕ある大人のように……。私はオリバーとアリシアに向かってハッタリをいい始める。


「ふぅ。つまらないわね。簡単に倒せるわよ?せっかく攻撃のチャンスを与えてあげてるのに?このグリムドラゴンを倒したこの私が」


「なんか口調が変わってるっす。でもその手にはのらないっす!エルン=アクセルロッド!お前は『便利屋』と呼ばれてる平凡なギルド冒険者っす!」


「待ってくださいオリバーさん。あの人さっきから余裕がありそうです。仮にもしグリムドラゴンを倒したとしたら、能力を隠し持っているかもしれません!」


 いいぞいいぞこのままなら何とか押し通せる。


「オレはこの入り口を任されてるっす!例えグリムドラゴンを倒していたとしてもここから先は行かせねぇっす!」


「そうですね。私もこの入り口を死守します!」


 だから草生えるって。なんでこの2人は連携が崩れない?普通なら絶対崩したくなる場面なのに……。そんなことを考えているとミーユが後ろから叫ぶ


「エルーン!急いで後ろに下がって!」


「え。」


 その瞬間だった。上空から巨大な網のようなものが降り注ぎオリバーとアリシアを拘束する。私は間一髪後ろに下がりそれを避けることが出来た。


「なんすかこれ!」


「動けないしなんかベトベトしてます!」


「『蜘蛛の網弾スパイダーネット』その網は特殊な魔法技術を用いて出来てるから抜け出すのに一苦労だよ?ていうかしばらくすれば消えるから安心してそこで休んでて」


 ミーユは魔導銃を片手でクルクル回しながらオリバーとアリシアに言った。というか私にも当たりそうだったんだけど?今のは私のスキル関係ないよね?


「まだ……ここを通すわけにはいかねぇっす!卑怯っすよ!勝負しろ『便利屋』エルン=アクセルロッド!」


 オリバーはミーユのその魔法を力業で引きちぎろうとしている。凄い忠誠心だな。ただその時、その忠誠心をぽっきり折るかのように、大きな地響きと共には倒れてもがくオリバーとアリシアの顔の近くに現れ、そこに鬼がやってくる。


「黙れ。その顔を潰されたいんですか、このバトルハンマーで?」


「ひーっ……。」


「あわわっ……はぁ……」


 オリバー共にアリシアは泡を吹いて気絶する。敵だけど可哀想に。同情する。アティは鬼のような顔からいつもの顔に戻り私とミーユに駆け寄ってくる。


「エルンさんの事悪く言ってたので少しだけなんですけど……なんかおとなしくなりましたね?これで中に入れます!」


「うん。ありがとねアティ」


「アティを怒らせないようにしようねエルン」


 アティの私への忠誠心は痛いほどわかった。そしてミーユはこそこそ私に伝える。それは同感だ。なんにせよ中に入ることが出来るようになった。この先はあの3人か。気をつけて行くべきだよね。


「というかエルンのあの喋り方ウケるんだけど。ぷぷっ」


「もう!言わないでよミーユ!私だって怖かったんだから!」


「ごめんごめん。でもありがと。あいつらを拘束できたよ。視界が広いのが逆に仇になったよね?」


 確かに狭い空間じゃあの魔法弾を使うことが出来なそうだしな。それにしても色々な魔法弾を持ってるんだな。他に何があるかあとで聞いてみよう。


 私たちは盾役のオリバー、回復魔法要員のアリシアを拘束してワーロック古城の中に入っていく。『月光水』と『ムーラン花』があるのは中庭だったよね?とりあえず急いで向かうことにする。


 しばらく進んだ先、中庭への通路に差し掛かったが見たことのある大きな剣を背中に背負った男の姿が私たちを待ち受けていた。


「やはりあの2人じゃ無理だったか。」


「グラッド、そこをどいて」


「それは意味のない質問だろう。エルン=アクセルロッド。お前たちがあの2人を倒したのがいささか疑問だが?そこのピンク髪の女の力か?」


 ミーユが2人を拘束したのは間違いないけどね。そんな事はどうでもいい。正直ここからが本番だ。私たちはリーナ、グラッド、ロードの3人を抑えて『月光水』と『ムーラン花』を手にいれなければならない。


 もう時間がない。私はミーユとアティに合図を送る。2人には通じたみたいだ。私は剣を抜きグラッドに向かって襲いかかる。


「軽い。なんの真似だ?」


「今だよミーユ!アティ!」


 私の合図と共にミーユとアティは中庭への通路を駆け抜けていく。そう私はグラッドをとめるために、あえて一対一の状況を作り上げた。おそらくグラッドはこう思っているだろうな。血迷ったか?って。言葉には出ていないが剣と剣を交えているその顔が物語っている。


「エルン=アクセルロッド。お前の遊びに付き合ってる暇はない。ゴブリンもスライムも倒せんお前がこのオレの相手をするだと?ふざけるなよ?昔の仲間のよしみであまり傷つけないようにしようとしたんだがな?」


 変な騎士道を私に振りかざしてくる。やはりここで私の最強のスキル『相殺の調停キャンセラー』を見せるしかない。こういう勘違い男にはお仕置きが必要だ。私はオリバーとアリシアと対峙した時と同じく余裕を出してグラッドへいい放つ。


「ゴブリン?スライム?あんな雑魚はあなた達が狩ればいい。私はグリムドラゴンを狩った女よ?あなたたちと一緒にしないで。」


「戯言はそこまでだ!オレがここで引導を渡してやる!覚悟しろエルン=アクセルロッド!!」


 グラッドは大剣を軽々振り回し威力の高い斬撃が私に襲い掛かってくる。私はその斬撃を一本のショートソードで受け流す。さすがに威力がある。その斬撃を受け流す勢いで私は後ろへ下がる。


「なん……だと……?」


「言ったでしょ?一緒にしないでって。さぁ次は本気で来るといいよグラッド。一応忠告しておくよ二度はないからね?」


 グラッドの大剣の威力が凄いのは知っている。でも残念だったね。私の最強無敵の『相殺の調停キャンセラー』のスキルの前には無意味だよ。あんたが底辺と『便利屋』と呼んでいた私が、グラッドあんたの本気の力をすべて受けきって、力を示して絶望させてやるんだ。さぁ来るといいよ。ここで私が引導を渡してあげるから!

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