第15話 復活させたい!

 翌日の放課後、オカルト研究部は、学園祭で使った額や、取りつけていた壁の片づけに追われた。全てを片づけたころには、腕も足もプルプルになってしまった。


 展示物が片づき、広くなった部室を見回すと、なんだか、昨日のことが嘘のようだ。


 空っぽになった部室は、あの、二宮金次郎を失った台座のようにさみしい。


「!!!」


 マイは、急にひらめいた。


「あの、わたし、一つ思いついたんですけど、二宮金次郎の像を、復活させることはできないでしょうか?」


 みんなは、きょとんとした顔でマイを見る。


「わたし、昔から、たくさんの人が、二宮金次郎を大切な人だっていう思いを受け継いできたからこそ、像として学校に置かれて、オカルトの中で生き続けていたと思うんです。だからわたし、二宮金次郎の像を、復活させて、これからも伝えていきたいです!」


 マイは一気に言ってしまったので、息苦しくなって、大きく息を吸った。


「いいんじゃないかな。復活させるの」


 リンが同意してくれた。


「うん、やってみるのもありなんじゃないか」


 センナも続けて同意してくれる。


「いまの人たちの大切な思い出が、オカルトの中で生き続けている。うん、これは、マイちゃん理論ね! いいわ! やってみましょう!」


 スズに、マイの理論と言われて、照れてしまう。


「でも、復活させる活動は、どのようにすればいいんでしょうか……」


 その時、部室のドアがノックされた。


 サナエ先生が、校長先生と商店街の会長と一緒に、部室に入ってきた。


「やあみんな。昨日は、講演してくれて、ほんとうにありがとう。ゆっくり休めたかな?」


 商店街の会長が、みんなの顔を見回した。


「今日は、二宮金次郎の像のことで、みんなに相談があってきたんだよ。いま、校長先生と宗谷先生ともお話しをして、オーケーしてもらったんだけど、みんなの意見も聞いてみないとってことになってね」


 みんなは、顔を見合わせた。相談とは、いったい何なのだろう。


「実は、今日の午前中に商店街の人たちの集まりがあったんだけどね、昨日の講演、すごくよかったねって話が出たんだよ」


 マイは、そう言われると、照れくさい。周りをみまわすと、みんなも同じようだ。


「話し合いの中で、二宮金次郎の像は、この富詩木中学校に通っていた人たちの多い商店街にとって、とても大切なものなんじゃないかって話になったんだ」


 マイたちオカルト研究部のみんなは、まじまじと商店街の会長の顔を見た。


「それで、話し合った結果、商店街として、昔やったように、募金活動をして、また二宮金次郎の像を建てられないかって話になったんだよ」


「ええっ!」


 みんなが、一斉に声をあげたものだから、商店街の会長も、校長先生も驚いてしまった。


「実は、わたしたちも、二宮金次郎の像を復活させたいって話をしていたんです!」


 マイが、思わず言ってしまった。


「なんと!」


 商店街の会長は驚きの声をあげて、校長先生を見る。


「校長! これは、募金活動をはじめても、よいということですね!」


 校長先生は、こくりとうなずき、


「募金活動にはぜひ、オカルト研究部のみんなにも手伝ってほしいと思っているんだ。みんな協力してくれるということで、いいかな?」


「もちろんです!」


 四人は、同時に声をあげた。


 サナエ先生も、校長先生も、そして商店街の会長も、うれしそうにうなずいている。




 校長先生と商店街の会長が部室を退室してからも、まだ半信半疑の気持ちだ。二宮金次郎の像を復活させたいと話をしていて、それがこうもあっさりと進むことになるとは。


「みんな、ほんとうにすごいわね。講演も、とってもうまくいったし。二宮金次郎の像を復活させようって考えていたなんて、わたし、感動しちゃったわ!」


 サナエ先生に言われると、照れくさい。


 そこへ、パン! と一つ手を叩いて、スズが立ち上がった。


「よし! それじゃあ、これからは、二宮金次郎の像を新しく建てるための、募金活動に取り組んでいくことになるわね! さあみんな、何か意見はあるかしら!」


 思い立ったら、スズはすぐにみんなをまとめようとしてくれる。


 まずセンナがそれに応える。


「募金活動といっしょに、今回作った資料をパワーアップして、見てもらうといいですね」


 すぐにでも作業にとりかかりたそうにうずうずしている。


 続いてリンは、


「学校でも募金活動をするなら、休み時間や放課後に、生徒に向けて講演するのもいいかもしれませんよね」


 やる気に満ちあふれている。


「二人ともいいわね! 採用! ぜひ、やってみましょう! ほかには何か、あるかしら」


 マイは、思いついた考えが、すぐに口から出た。


「今回調べたことをまとめたパンフレットを作れないでしょうか。きっと、たくさんの人が、懐かしいことを思い出してくれると思うんです」


 みんなは、うなずいてくれた。


 パンフレットを作って、商店街の人たちに、懐かしい時代を思い出して笑顔になってほしい。それが、マイの新しい目標だ。


「そうと決まれば善は急げね。さっそく準備にとりかかりましょう! わたしは、生徒会にも話をつけたり、あちこちと調整したりするわね。サナエ先生は、商店街との調整をお願いすることになると思いますが、いいですよね」


 スズが張り切った声で言うと、


「もちろんよ。任せてちょうだい」


 サナエ先生は、笑顔で答える。


「わたしは、パソコンで資料の整理と、パンフレット作りですね」


 センナは、分かっているといわんばかりの勢いだ。


「それじゃあ、わたしは、生徒向けの講演のシナリオを作ります」


 リンも、すぐにとりかかることができそうだ。


「わたしは!」


 マイが張り切って言う。


「パンフレット作りのための資料を、図書館で調べてきます!」


 みんなは、それぞれの準備にとりかかった。




 マイは、さっそく図書館に向かおうと、玄関でくつを履きかえる。


 玄関を出ると、外は快晴だ。


 まぶしい光の中に、主を失った二宮金次郎の像の台座がたたずんでいる。


 マイは、台座の前で足をとめた。


「ありがとうございます」


 マイの胸の中から、自然とお礼の気持ちがあふれてきた。


 二宮金次郎の像が、こうして、マイに素敵な仲間を与えてくれた。


「また、会えるんですね」


 マイは、これから、自分たちが作っていく二宮金次郎の像を、何もない台座の上に思い浮かべた。


「これからも、みんなを見守ってください。そして、オカルトで怖がらせてくださいね」


 今度の像は歩いている姿か、座っている姿か。


 そして、どんなオカルトが語られるかを考えると、ワクワクしてくる。


「その時は、わたしたちが調査しますね」


 オカルトを、一生懸命調べている、オカルト研究部の部員たちを思い浮かべる。


 リーダーシップを発揮できるが、オカルトとなると、われを忘れてしまうスズ。


 たよれるしっかりものなのに、人前で話すのが苦手なことを隠していたセンナ。


 最後まで入る部活を決められずにいたが、一度決めると、問題解決のヒントを見つけてくれるリン。


 なんだか、おかしな性格の部員が集まっているが、このみんなとなら、きちんと、そして楽しく、調査できる気がする。


「わたしは、人と関わるのが苦手です。でも、このみんなとなら頑張れます」


 マイは、台座の上で、二宮金次郎が見守ってくれているような気がした。


「調査に協力してくださいね。おかしなオカルト研究部ですけど」

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おかしなオカルト研究部~二宮金次郎の像が動き出す!?~ おとさらおろち @orochi5656

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