ワタシナカバ

そうざ

I am Half

「目を二重にして、鼻は高くして小鼻は縮小、頬骨とと顎を整え、身体に関しては豊胸、脂肪吸引……締めてこれくらいになります」

 医師が提示した金額に溜め息を吐きながら、私は脳裏で預金通帳をめくった。

 就労の状況や年収から、ローンを組むのは厳しい。親には言えないし、知り合いを回っても集められるのは手術代の半分くらいが関の山だ。整形をする事自体に賛成して貰えるかどうか。

「段階的に進めて行ったら如何ですか? 例えば、ずは目だけを施術するとか」

 医師は、私の懐具合を察したようだったが、飽くまで事もなげに淡々と提案した。

 私には時間がない。ここで決めなければ、最初で最後かも知れない出会いをふいにする事になる。


 言葉から始まる恋には大きな関門がある。

 会おう――SNSでのやり取りを重ねた三ヶ月目、それは予想していた言葉だったが、私は答えにきゅうした。まだ早い。まだ何も手術をしていない。

 のらりくらりはぐらかしていると突然、写真が送られて来た。彼は決して美男子ではなかったが、清潔感にあふれる好青年だった。

 これまで以上に彼に惹かれたが、同時に、直ぐに会えないのならば写真だけでも見せて欲しいという無言のプレッシャーを感じずにはいられなかった。

 以前、好みの女性について然り気なく訊ねた事があった。その中で、外見は特に気にしないという私への気遣いとも受け取れる文言があったが、いざ具体例として挙げられたのは可愛いタレントばかりで、そんな質問をした私が馬鹿だったのだと後悔の念に駆られた。

 いっそ何処かから美人の写真を入手してその場をそのごうかとも考えたが、彼に対して余りに誠意がなさ過ぎるし、の道ばれてしまう。

 自分の写真に少し手を加えるくらいならば許されるかと試してみたものの、気付いたら全くの別人と化すまでいじくっていた。むしろ絶望感にむしばまれる結果になった。

 それでも、このままはぐらかし続けるのは彼に対して申し訳がない。何よりも、彼の興味が私から離れてしまいそうで怖かった。やっぱり取り急ぎ写真だけは用意した方が良いだろう。

 私は、藁にもすがる思いで医師に訴えた。

「今は費用の半分しか出せませんが、出来る範囲で直ぐにお願いしますっ」

 

 術後の経過は順調だった。

 撮影場所はもう決めていた。近所の公園に大きな銀杏いちょうの木がある。丁度、紅葉の時期だから、点景としても栄えるだろう。

 私は意を決し、彼にメッセージを送った。

『今はまだ恥ずかしいから半分だけね』

 写真には、銀杏いちょうの太い幹から半身を覗かせて微笑む私が写っている。

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ワタシナカバ そうざ @so-za

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