エピローグ

「行ってらっしゃい」


 今日も私は、笑顔で貴弥さんを送り出す。

 タッパーに入れた結婚指輪も、貴弥さんから貰ったネックレスも、まだそのまま怜ちゃんのアパートにある。

 怜ちゃんが念の為にと知り合いに調べてもらったところ、特に不審な点は見当たらなかったとのこと。

 けれども、あれからしばらくの間私は家から出る気にはなれず、怜ちゃんには処分して構わないと伝えたものの、大切に保管してくれているらしい。

 今も、冷蔵庫の中で。


「ごめんなさい、失くしてしまって」


 私の言葉を、貴弥さんは少しも疑う事は無かった。

 今、私の左手薬指にあるのは、新たに貴弥さんが買ってくれたもの。


「お前、本当に別れなくて大丈夫か?」


 怜ちゃんはものすごく私を心配してくれたけど、大丈夫と答える事しか私にはできなかった。

 本当は、分からない。

 大丈夫か、大丈夫じゃないか。

 それでも、私は貴弥さんから離れる事はできないのだろうと、そう気づいてしまったから。

 この心臓が、動いている限り。


 間違いない。

 貴弥さんと私を繋げているものは、貴弥さんが治してくれた、この私の心臓なのだ。


『愛され過ぎってのも・・・・怖ぇけど、な』


 ふと、怜ちゃんの言葉を思い出す。

 言いしれぬ恐怖に、心臓がキュッと縮むような痛みが胸に走る。

 まるでそれは、見えない手に心臓を握られているような・・・・。


【完】

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どこにいても ~・・・・見つけだすよ~ 平 遊 @taira_yuu

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