第4話 買物

(これもいいな。あっ、これも素敵・・・・う~ん、迷っちゃう!でも、さっきのお店のも、素敵だったのよねぇ)


 怪我をして以来、家事は全て貴弥さんが雇ってくれた家政婦さんの仕事となってしまい、時間を持て余した私は気晴らしにウィンドウショッピングを楽しむことが増えた。

 手術をした心臓は、今では何の問題も無く、私は至って健康そのもの。

 けれども貴弥さんは、私が1人で外を出歩く事に、あまりいい顔をしなかった。

 心配だから。

 というのが、その理由とのこと。


「僕から離れた場所で美織が倒れでもしてしまったら、僕はキミを守ることができないじゃないか」


 そう、真剣な顔で貴弥さんは言うのだ。

 怜ちゃんじゃないけど、貴弥さんは私の両親よりよっぽど過保護だと思う。

 でも、心配してくれるのはやっぱり嬉しいし、余計な心配をかけたくないとも思うから、私が買い物に出かけるのは貴弥さんが仕事に出かけている間だけ。

 それも、自宅から歩いて行ける範囲内。

 そう決めていた。


 けれども、偶然インターネットで目にした、素敵なカーテンがどうしても見たくなってしまった私は、貴弥さんの帰りが遅い日を狙って、自宅から少し離れたホームセンターまで電車で出かける事にしたのだった。

 寝室のカーテンが、どうしてもしっくりこなくて。

 貴弥さんが選んでくれたのだけれども、本当にびっくりするくらい頑丈な遮光カーテンで、閉めるとお日様が一番高い昼間でさえ部屋の中が真っ暗になる。

 それはそれでいいとしても、カーテンの生地の色そのものも暗い色で、無地。

 私としては、もう少し遊び心が欲しいなと思っていたところに、理想とも言えるカーテンを見つけてしまってはもう、見に行かない訳には行かず、居ても立っても居られないという衝動に突き動かされての外出だった。


(どうしようかな?もう一回、さっきのお店のを見てから決めようかな)


 目的のお店に行く途中、何の気なしに入ったお店でまた、さらに素敵なカーテンを見つけた私は、そのお店でかなりの時間を過ごしてしまった。

 久し振りの遠出(とは言っても、それほどの遠出でもないのだけれど)に、浮かれてしまっていたのかもしれない。

 その後慌てて当初の目的のお店でお目当てのカーテンを見てみたものの、どうにも決め手に欠けて、少し疲れた私は近くのカフェに入り休憩をすることにした。


(でも、もうすぐ貴弥さんが帰って来る時間なのよね・・・・さっきのお店に行ってまたここに戻って来る時間は無さそう。残念だけど、カーテンはまた今度にしようかな。そうだ、今度は貴弥さんにも一緒に見て貰えばいいのよね!2人の寝室だもの、一緒に決める方がいいわよね。でも・・・・コッソリ模様替えして、貴弥さんを驚かせるのもアリかな)


「ふふふっ」


 貴弥さんの驚く顔を想像し、思わず俯いて小さく笑いを漏らした時だった。

 4人掛けの丸テーブルの私の前の席に、誰かが座った。

 私が座っていたのは、店外のテラス席。

 店内はともかく、店外のテラス席はそう混んでいる訳ではない。現に、隣の席だって、その隣の席だって、空席だ。

 なのに、なぜ?


 そう思って顔を上げたそこにいたのは。


「随分と楽しそうだね、美織」

「・・・・貴弥さんっ?!」


 心臓が、ドクリと音を立てる。

 悪い事をしている訳では無いのに、目の前の貴弥さんの笑顔に、何故だか冷たい汗が吹き出し、胸の谷間を、背中を、流れ落ちる。


「ごっ、ごめんなさいっ、私」

「こんな所まで来るのだったら、言ってくれれば次の休みに車を出したのに」

「はい・・・・」

「怒ってる訳じゃ、無いんだよ?ただ僕は、美織の事が心配なんだ。どこかで倒れでもしたら、とか。誰かに攫われでもしたら、とか」

「・・・・えっ?攫われるって」


 子供じゃあるまいし。


 そう言おうとした私を制するように、貴弥さんは言った。


「僕の美織はとても可愛くて綺麗だから、ね」


 じゃあ帰ろうか、と差し出された貴弥さんの手に片手を預け、そのままカフェを出て貴弥さんの車の助手席に座る。

 静かに発進した車内で、私はふと思い浮かんだ疑問を、ゴクリと飲み込んだ。

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