未来から来た、初めての音

2007年8月26日投稿『涙そうそう ロボが歌いだした(沖縄感)』から行程再開


 沖縄感あふれる楽曲から、今日の行程が始まった。幼少期に祖母に連れられて一度だけ行ったが、美ら海水族館以外の記憶がほとんどない。できれば改めて沖縄にも行きたいなあ、と思いながら『涙そうそう』を聴いていた。

 今歩いている時期である2007年8月に入ると、ワンカップPの動画が多くなってくる。古参ボカロPの一人であるワンカップPは、かなり初期の頃からVOCALOIDを駆使した動画制作を行っていた。そのP名の理由となる動画はまだまだ先で出会うだろうが、彼の優れた調声技術はこの時期からすでに発揮されている。先の『涙そうそう』のカバーも、MEIKOが綺麗に歌い上げた名カバーであると感じる。

 そして、ゆっくりと進めてきたこの「ボカロ旅」であったが、ついにあの少女に出会う。そう、"初音ミク"だ。

 2007年8月29日投稿の『ボーカロイド 初音ミク デモソング』というタイトルの動画に、私は到達した。これは初音ミクのデモソング『01 ballade』を紹介した動画であり、ニコニコ動画における最古の初音ミクを用いた動画である。公式から公開されている最古の初音ミクの楽曲とも言われている。これから10年以上にわたって世

界を動かしていく歌姫が、ここに誕生したのだ。

 くるぶしまで届く長い浅葱色のツインテール、ソフトウェアにも関わらず存在するプロフィール、「キャラクター・ボーカル・シリーズ」の第一弾として発表された初音ミクは、当時のVOCALOIDとしては異色の存在だ。

 当時の販売状況に関して、クリプトン・フューチャー・メディアの伊藤博之社長は、柴那典著『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』でこう語っている。

「発売前の時点で受注が500本あったんですね。要はその時点で500人のボカロP予備軍がいた。これは本当にびっくりする数字でした」

 発売後2週間で初音ミクの売上本数は3000を超え、爆発的なヒットをたたき出した。これは開発陣も想定していない売上の凄さだった。柴氏は、90年代から続くエレクトロニカの文化や、当時から盛んであった同人音楽の文化、黎明期のニコニコ動画など、様々な背景があったことが、初音ミクの大ヒットにつながったと分析している。実際、『01 ballade』発表以降、正確に言えば、初音ミクが販売開始された2007年8月31日以降、ニコニコ動画では爆発的に初音ミクを使った動画が増える。

 ちなみに最古のユーザーによる初音ミク動画はあまり知られていない。9月1日に投稿された『ボーカロイド 初音ミク 早速作ってみた』というタイトルの動画である。アニメ『ゼロの使い魔〜双月の騎士〜』のED曲である『スキ?キライ!?スキ!!!』のカバーである。元々のボーカルである釘宮理恵の歌声が残っており、またミクの音量が少し小さいため分かりにくいが、一応ミクが歌っていることが聞き取れる。

 ミクのソロ歌唱という観点で考えると、『VOCALOID2 CV-01 初音ミク SPEC TEST #01 「夢冒険」』という動画が該当する。酒井法子が歌った『アニメ三銃士』の主題歌のアレンジカバーである。ちなみにこれは「ミクトランス」タグが付いた動画としても最古である。

 発売直後からユーザーがガンガン動画投稿していたというのには驚きを隠せない。当然調声のノウハウはまだ発展途上にあるため、聴きにくいものもあるのは事実だ。しかし、彼らのチャレンジがあったからこそ、今の初音ミクが存在しているというのもまた事実だ。初音ミクの誕生直後を支えた勇者たちの軌跡を振り返りながら、この旅路を進めていきたい。


2007年9月2日投稿『音声合成で歌わせてみた「チェルシーのうた」(初音ミク Ver.)』にて今日の行程終了


『涙そうそう ロボが歌いだした(沖縄感)』

https://www.nicovideo.jp/watch/sm919066


『ボーカロイド 初音ミク デモソング』

https://www.nicovideo.jp/watch/sm941537


『ボーカロイド 初音ミク 早速作ってみた』

https://www.nicovideo.jp/watch/sm959032


『VOCALOID2 CV-01 初音ミク SPEC TEST #01 「夢冒険」』

https://www.nicovideo.jp/watch/sm962214


参考文献

柴那典(2014)『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』太田出版

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