第7話 竜人族ヒルデガルド・エスターライヒと微睡の時間

名称:ヒルデガルド・エスターライヒ

体格:169cm、わがままおっぱい、紅色のつり目、赤髪、湾曲した鋭い2本角、背中に羽、ドラゴン尻尾

種族:竜人族

年齢:212歳

備考:エスターライヒ家次期当主。処女。


名称:ローザ・シュピッツ

体格:172cm、小ぶりのお椀型おっぱい、白髪に一筋の赤いメッシュ、体の一部に鱗

種族:鱗人族

年齢:24歳

備考:ヒルデガルド専属メイド


――――――――――――――――――――――――――――――――


「ふーむ、これか?」

豪華な部屋だった。

真っ赤な絨毯に美しい調度品。

壁や天井を彩る飾り細工はまるで王室か宮殿を思わせる。

天井付近に嵌め込まれたステンドグラスからは陽光がキラキラとした光に変わり部屋に差し込んでいた。

「それともこれか? いや、こっちの方が良いか」

そんな部屋にいるのは2人の女性。

鏡の前で悩んでいる1人の後ろで、静かに控えていた。

「ちょっと派手過ぎるような、いや、むしろ少しくらい派手な方が…? いやしかし、うーむ…」

鏡の前で服を合わせては、あれでもないこれでもないと服を次々にベッドに放り投げていく女性が一人。

ベッドの上には積み上げた服でこんもりと山が出来ていた。


「年頃だからな、ちょっとくらい肌を見せた方が良いか?

 …よし、どうだローザ。これならヘンリーも喜ぶんじゃないか?」

「お嬢様、舞踏会でもないのにパーティドレスはどうかと思います」

「そ、そうか? 背中とか胸とか見えた方がよくないか」

「素直に言ってドン引きでございます。少々盛りすぎでは?」

「さ、盛ってなどおらんわ!」

「………」

「…そう見えるか?」

「性欲が透けて見えますね、端的に言って下品です」

「貴様ちょっと口が悪すぎないか???」


使用人からのあまりの暴言に唖然とした顔をしているのは、燃え盛る炎を思わせる真っ赤な髪の女性だ。

波打つ豊かな髪をかき分けて2本の角が天を指すように屹立し、髪と同色の瞳は宝石のように輝く。

尻から伸びる特徴的な長い尾が不満げにゆらゆらと揺れていた。

竜人族。

この世界において最も強く、そして同時に最も数の少ない長命種。

その中でも名高い【火のエスターライヒ】を継承すると期待されている女こそが、この部屋の主であるヒルデガルド・エスターライヒだ。


そんな彼女と向かい合うのはメイド服の女性。

白い髪に一筋の赤いメッシュ、切れ長の瞳には鱗人族特有の縦に割れた瞳孔がのぞいていた。

溜息を吐いてツカツカとヒルデガルドの横を通り過ぎ、ベッドの山をかき分けて発掘した服を手に取った。


「これでどうでしょうか」

「少し地味ではないか」

「これでどうでしょうか」

「いや地味では」

「これでどうでしょうか」

「………」

「………」

「分かった、分かったからそんな目で見るでない!」

「ええ、それではちゃっちゃと着替えましょう。

 服を決めるのにどれだけ時間かけてるんですか」

「のう、ローザよ」

「何ですか? そろそろ約束の時刻に…」

「髪型はどうしたらいいと思う? 私としてはいつもとは違った印象を与えたいのだが」

「………」

「『時には髪型を変えて好印象を狙え』とこの指南書で…ローザ? のうローザよ、どこにいくのだ、話はまだ終わっていないぞ」

「おーい」

「…行ってしまった」

「そういえば髪飾りはどれにしようか」


その後、鏡の前でああでもないこうでもないと、10分後に迎えに来たローザの雷が落ちるまで着替えもせずに髪を弄るヒルデガルドだった。

20分もの議論の末、いつもの髪型にアクセントに小さな三つ編みを一つ作ることで決着した。



◆―〇―◆《ref》御者さんがクソほど頑張って約束の時間には何とか間に合った《/ref》



「約束の時間ギリギリだなヒルデガルド、昼寝でもしていたのか?」


ラインバッハ家に到着して、門をくぐったその目の前に。

クラウディア・ラインバッハが仁王立ちしていた。


「久しいなクラウディア殿。いやなに、道が混んでいてな、中々馬車が進まなかったのだ」

「どこぞの紋章を引っさげた馬車が大慌てで大通りを走らせていたと聴いてな、私はてっきり貴様の馬車かと」

「そのようなことはないとも。なあローザよ」

「………」

「ローザ、そうよな? な?」

「そういうことにしておいてやろう」


くつくつと喉を鳴らして笑うと、とクラウディアは踵を返して背を向ける。

着いて来い、ということだ。

竜人族を相手になんと尊大な態度だろうか。


「さっさと来い。ヘンリーを応接室で待たせている」

「それは急がねばならんな。なあクラウディア殿、ヘンリーは元気にしていたか?

 あと、私のことで何か言っていなかったか?」

「自分で聴け」

「つれないのう」


勝手知ったるラインバッハ家だ、道順を知っている私はクラウディアと並んで玄関までの道を歩く。

ヘンリーに早く会いたい気持ちがあるが、当主直々の案内を追い抜いて邸宅に突っ込む訳にはいかぬ。

もう少し早く歩いてくれんかのう。


「そういえばクラウディアよ、魔法学区で研究室が爆発したぞ」

「またか、今月で何度目だ。下手を打ったのはどこのどいつだ?」

「エルフだが」

「またエルフか…」

「くかか、何ぞ疲れた顔をしているな。あの姉妹が何かやらかしたか?」

「いつものことだから気にするな。

 それと、分かっているだろうがヘンリーに変なことはするなよ」


前を向いていたクラウディアは私に向き直り、私と目を合わせた。

紅色の瞳がぬらりと剣呑に光る。


「絶対にするなよ」

「分かっておるとも」

「舐めた真似しやがったらお前の家に殴り込みに行くからな」


私の角を拳でへし折った女が言うと冗談には聴こえんな。

というかこの竜の淑女たるヒルデガルドがそんな真似をするものか。

応接室までの間、そんなクラウディアの注意を聞き続けるのだった。



◆―〇―◆



「――で、エルフ連中の研究室が吹き飛びおったのだ。

 なんでも魔法族との共同研究で魔素を自動生成する永久機関の開発だったかをしているところでな。

 研究室を囲っていた空間隔離結界がなんと3層まで一気に破られたという話だ」

「魔法学区の結界って竜人族のドラゴンブレスにも耐えられるって聞いたけど」

「うむ」

「それが3層も?」

「うむ」

「やばい」

「あの時のエルフ連中の顔はそれは見物だったぞ」


多くの予算を割いて作った研究室が目の前で一瞬で塵となったのだからな。

大規模な戦術魔法並みの爆発規模だが、それでも一人として死傷者は出ていない。

消滅したのは研究室一つだけで、爆発自体も隔離結界にぎりぎり封じ込める範囲だった。

限界を攻めつつも致命的な一線は決して超えないあたりが実にエルフ族らしい話だ。


部屋の前でクラウディアと別れた私は、応接間でヘンリーと談笑している。

約束よりも少々遅れての到着ではあったが、ヘンリーは嫌な顔一つせずに応接室に通してくれた。

これが竜人族の男なら見苦しいだのなんだと喧しく囀っていただろう。


私とヘンリーは同じソファーに並び、後ろの壁付近にはローザとタマラのメイド2人が並んでいる。

そう、肩が触れる距離で、未婚の男女が同じソファーでだ。

そんなに私が魅力的かヘンリーよ。

仕方のない奴だな。

このヒルデガルド・エスターライヒに触れる名誉を許してやろうではないか。


「このケーキは新作でな、まだ店頭にも並んでいないもので…うひゃっ」

「あ、ごめんね。肩が当たっちゃった」

「いや問題ないぞ、うむ。

 …ああ、カップが空いているな、どれ、私が注いでやろう」


背後のメイドを後ろ手に制して、紅茶を注ぐ。

落ち着け、ちょっと肩が当たっただけだ。


「ありがとう、ヒルダ」

「この紅茶も私が選んだものでな、特に…ッ」


カップを受け取ったヘンリーの手が、私の指に触っ――たからなんだというのか。


「大丈夫? 顔が赤いよ」

「す、少し暑くてな」

「確かにちょっと暑いかも…タマラ、室温を少し下げて」

「畏まりました坊ちゃま」


なんだその目はメイドどもめ。

近寄ってきたヘンリーが私の額に手を当てた。


「ぬぁっ、何を…」

「うーん、ちょっと熱っぽいような気もする」


婚姻前の男子がなんてことをするのだ!

私は慌ててヘンリーの手から額を離す。

後頭部が背もたれに当たる勢いだった。

なんという無防備さだろうか、これでは悪い女の食い物にされてしまうのではないか?

女というものを少しわからせてやるべきなのではないだろうか。

ふと脳裏にひらめくものがあった私は、冷静さを欠いたまま口を動かす。


「そういえば昨夜は少し根を詰めすぎたかもしれないな」

「寝不足だったらうちで軽く眠ってく?」

「…ヘンリーが膝枕でもしてくれれば、疲れなんぞ吹っ飛ぶんだがなあ」

「いいよ」

「なんて冗だ…んん?」


今なんて言った?

予想外の台詞に固まった私を置いてけぼりにしたまま、ヘンリーが腰を上げた。

座っている位置をずらすと、太腿まわりのズボンのしわを伸ばしてソファーに深く座り直す。

まるで夢に見た膝枕待ちの姿勢のようだった。


「どうしたの?」


混乱のあまり、反射的に脊髄から頭部へ魔力を流して精神の安定化と気付けを行う。

間違いなく夢ではなかった。

そしてヘンリーは完全に膝枕の姿勢だった。

さらに言えば私が頭を乗せるのを待っている状態で、男にここまでさせておいて、今更冗談なんて言える雰囲気ではなかった。

脳内に様々な言葉が泡のように浮かんでは消えていく。

(婚姻前の男女が)(膝枕)(はしたない)(年上の威厳)(竜人族の誇り)(夢の膝枕)(火のエスターライヒ)(クラウディアに殺される)(膝枕)

《b》「ヒルダ」《/b》

ヘンリーの声。

それが耳に響いた途端に猥雑な思考が吹き飛んで、私は呆けたように黒髪の少年を見た。

彼は微笑みながら片手を伸ばして私の頭を撫でると、残った手で自分の膝をぽんぽんと叩いた。


「おいで」

「うん」


頭は真っ白な思考のままで、しかしヘンリーに言われた通りに体は動く。

彼の膝にゆっくりと頭を落とすと、後頭部に柔らかな感触が。

続いてじんわりとした熱がゆっくりと広がっていく。

見上げると視界の半分がヘンリーで埋まる。

瞬きさえ忘れて見上げていると、暖かなもので視界が暗く塞がれた。

もっと見ていたかったのに。

抗議の声を上げそうになって、塞いだそれがヘンリーの掌だと気づく。

心地良い。

人肌はこんなにも安心するものだったのか。

体から力が抜けて、出まかせだったはずの眠気が脳をひたしていく。

眠りたくない。

いやだ。

眠りたくないのに。

衝動のままにヘンリーへ手を伸ばすと、その手をぎゅっと握られた。

ああ。

心が満たされる。

ヘンリーのぬくもり、ヘンリーの匂い、ヘンリーの脈拍、ヘンリーの…。

いくつものヘンリーに包まれて。

私は幼竜の時分のように喉を鳴らして眠りに落ちた。


――――――――――――――――――――――――――――――――

恋 愛 ク ソ ザ コ ド ラ ゴ ン。

こんな有様で200歳超えてるんですよ皆さん。

ヘンリー君の母性が溢れすぎた感があるけどまあええやろ。


≪TIPS≫竜人族

強靭な肉体+豊富な魔力=さいつよ戦闘力。

竜人族はこの世界における最強種族である。

そしてパラメータを戦闘力に全振りした結果、つよつよ戦闘力に反したよわよわ生殖能力で個体数が最も少ない種族でもある。

実力に裏打ちされた高いプライドを持つ反面、ベッドの中では超媚び媚びのドMに変貌することは竜人族の伴侶のみが知っている。

有識者によると男の寵愛を受け易くするための進化ではないかと推測されている。つよつよ傲慢女の媚び媚び全裸土下座からのみ得られる栄養は確かに存在する。

性感帯は逆鱗と呼ばれる一枚の鱗。 生殖器と肛門の間、もしくは尻尾の裏にあることが多い。

竜人族の女性は生まれつき2枚の逆鱗を持つが、恋人・伴侶が出来ると自然に逆鱗を1枚散らせる為、いい年なのに逆鱗が2枚の者を”鱗余り”と揶揄する文化がある。

普人族とは肉体性能に大きく差があり、全力で首を絞めてもちょっと苦しく感じる程度。強気で責められるプレイ全般を好むため首絞め程度ではむしろ興奮させるだけである。

角が悪魔族と似通った形状をしているのはMの定向進化によるもの。

逆鱗に響くくらいの鬼ピストンされると性的に死ぬ。

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