第24話 縦書き脳

   

 プライベート用の携帯電話が鳴った。

「入賞には届きませんでしたが、ちょっと手を加えたら出版できますので~」と東京の出版社を名乗る男性は営業トークを始める。

 電話を切りそびれているうち、かなり昔に応募したことを思い出した。

『入賞作品は無料で出版します』というキャッチフレーズに誘われ、ついうっかり文壇デビューを夢見たことまで……。


 甘言が続いた挙句のトドメ!

  電話あり「三百万」の一言に上梓せむ夢ぞ砕け散りける(医師脳)

「ちょっと加える」と言うのは〈手〉ならぬ〈大金〉だった。

「今回のお誘いを励みに、今後も駄文を書き続けます」と携帯を切る。


 紙の本を出版しないのならどうする?

『カクヨム』という無料の縦書きブログサイトだ。

 そこへ『医師脳・百円文庫』として掲載すれば、読者から応援マークやコメント・レビューが付き、おおいに励まされる。

 互いの作品を読み合う仲間には団塊世代もいて、ちょっとしたオンライン・サロンの雰囲気だ。

『医師脳・百円文庫』


 パソコン画面を縦書き設定にしたら、作文の思考回路まで変わった。

 気取って「縦書き脳」とも言うべきか。

 それにしてもパソコンの作文機能は素晴らしい。

 レイアウトの変換も自由自在で、まさに「縦横無尽」の活躍である。

「さすがは爺医の縦書き脳の杖だ!」と煽て挙げておこう。


 高齢者の文壇デビューが話題の昨今、それに憧れる私たち団塊世代は、出版社にとって格好の標的に違いあるまい。

 が読まれもしない自費出版本に大枚を叩いてナントする。

そんな夢など追わずとも、青森県には月刊『弘前』なる文壇があるではないか。

……と爺医の繰り言は続く。


(20230401)

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