第6話 〈終の食〉のすゝめ

〈爺医の一分〉から

〈人生、二刀流〉

〈医家 三種の神器〉

〈四足の草鞋〉

〈五百の錘〉と、番号順に続けてきた。


 繰り言の最終回ということで、今月は〈終〉をテーマにしよう。


「終の棲家に」と確保した猫の額ほどの土地。

 ……岩木山と向き合う高台だ。

「ずっと更地のままだったらいいのにね」と妻は草取りを続けた。

「両隣がキリスト教だから、我が家も背の低い石造りに」とは決めてある。


 ふつう「終の○」と言うとき、何やら諦め感がただよう。


 でも〈終の食〉は、前向きに使いたい言葉だ。

 老健カルモナで薦めている〈終の食〉は、看取り期で食欲のなくなった方へ〈食べる楽しみ〉だけでも……という願いから生まれた。


 それは栄養補給に止まらず、生きる気力をも生み出す。

 〈食〉と〈生〉とは、ポジティブ・フィードバック。


 家族も〈終の食〉を工夫することで、思い出作りができて、最期の時を充実させられよう。

 さらには看取る覚悟も生まれるはず。


 そう願って、家族に聞いた。

「お婆さんは何が好きでしたか?」

〇胃瘻の婆、桃ジュースなめ微笑めり味覚嗅覚蘇(かへ)りしならん


「お爺さん長くないから、好きな焼酎を飲ませたら?」と家族にすすめた爺医。

「大丈夫ですか?」と驚かれた。

 結局、お爺さんは(栄養士の作った焼酎シャーベットで)晩酌を楽しみ、一週間後に家族が見守るなか大往生した。

〇終の食に〈いいちこ氷〉しゃぶる爺、看取る家族の禁酒令とけ


 翻って(古希+2の)我が身のこと。

 いずれ来る〈終の食〉を思いつつ……。

 酒はやめたし、外食も面倒になった。

「手料理が一番」と、妻への一首。

〇酒無用! 供物もいらぬ遺影には汝と食わんや生くる間にこそ


(20200401)

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