第3話 医家 三種の神器

 昭和から平成そして令和と〈改元〉を二度も経験した。


 改元のたび話題になるのが〈三種の神器〉

 …皇位の象徴であり、八咫鏡(やたのかがみ)・草薙剣(くさなぎのつるぎ)・八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)の総称。


 ところが1950年代には下々まで、白黒テレビ・洗濯機・冷蔵庫を〈三種の神器〉になぞらえた。


 その変遷をまねて「ならば爺医も!」と…。


 【聴診器】は(若い頃に使っていた物より)高性能な神器に頼っている。

〇あばら透け「おしょし」と恥づる婆さんのシャツの上から聴診するなり

「うんうん」とうなずきながら(たとえ不整脈や心雑音など聞こえても)厳かに「いい音だ」と告知する。

 お婆さんは「よかったよかった」と両手を合わせる。

 お爺さんは「合格!」の一言に納得する。

 何しろ霊験あらたかな聴神器(?)ではある。


 【エコー検査】は産科医だったから得意。

 …妊娠初期のピコピコ動く心拍を見せれば妊婦さんも安心できる。

 大きな胎児なら、股間を見せれば「男の子だ」と一目瞭然である。

 もっとも、老健施設で妊婦さんに見せるわけではないが…。

〇いまもなほ産科医時代の口癖の「順調ですよ」エコーあてつつ

「尿閉なのでエコーしたら前立腺が腫れてるようです」とナースの声が聞こえる。既に彼女らの神器でもあるのがポケットエコー。


 【顕微鏡】は(高齢者に多い)水虫の診断にも欠かせない。

 老健カルモナの爪白癬は、塗り薬と電動ヤスリも動員して随分と減った。

 アルカリ処理をしている看護師長さんの姿に、医学生だった頃の実習の思い出が重なる。

 顕微鏡を覗くと…白癬菌は今も菌糸を伸ばしていた。

〇こもりぬの顕微鏡下の白癬菌アルカリ処理の哀しくもあるか


(20200101)

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