第12話 道徳の授業をします

 タツヤは新しい花を買うと、ミコトの病院まで急いだ。

 俺はその間、説教しようと思っていた。でもできなかった。

 あの技術を教えたのは俺だ。正しい力の使い方を教えなかったのも俺だ。やはり、俺はこいつの中にいてはいけないのかもしれない。


「美琴、きたよ」

「あ、いらっしゃい。遅かったですね。あれ?なんでマスク?」

「ちょっと風邪ひいちゃって」


 この一言で、俺はさらに罪悪感に潰されそうになった。普段嘘をつけないタツヤが、ついてはいけない相手に堂々と嘘をついたのだ。

 タツヤが花瓶に花を添えるのを確認すると、ミコトは険しい表情で近づいてきた。

「風邪、本当に?」

「本当だって」

「じゃあマスク取ってみて。でないと私が取る」


 おそらくすでに気づいていて、ミコトは怒っていたのだろう。タツヤをそこにお座りさせて自ら取るように迫る。

「分かったよ、ほら」

 ミコトは言葉を失った。青くなった鼻から出血の痕。それも二箇所。

「どうしたの!?これ」

「喧嘩したんだ」

「もしかして、達也さんも殴った?」


 黙りこくるタツヤにミコトはムッとしたような顔を浮かべ、

「今から道徳の授業をします!そこに直れぇ!ロンくんも座りなさい!」

「でも..」

「お座り!」


 それからみっちり、時間にして2時間。いつもなら帰る頃まで怒られた。

 そして三つ約束させられた。


 一つ、暴力は命に関わる時以外振るわないこと。

 二つ、一方的な暴力なら傷の残らない無力化に留めること。

 そして三つ、


 タツヤとロンは協力して場に対処すること。


 困った。タツヤの中から消えるべきだと考えていたのに変なことを約束させられてしまった。タツヤ経由で返事まで。


 そして星の下に顔を出す。けれどタツヤは下を向いたままだ。

「初めて怒られたな、美琴に」

『明日、あの太っちょに謝るか。やりすぎたと』

「そうだな。多分ビビるぞ、あいつ」

『本当にすまんな』

「いいよ、ロンの静止を聞かずに行動したのはぼくだ」


 もっと責任を持ってタツヤには教えるべきだったのだ。そしてタツヤに謝らせている時点で、俺の失態だ。


 家に帰ると、母親が青ざめた顔で電話を握っていた。

「あんた、停学だって..」


『「えっ」』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る