第2話 恋の破滅屋

「うんうん、分かるよ~。そんな彼ピとは早く別れた方がいいよ~。絶対他に良い人がいるって~」


 今この瞬間、一つの恋が終わった。


「いっちょ上がり~! さて、サンくんからまたマシュマロもらわなきゃ!」


 私はムーン。悪魔で『恋の破滅屋』。サンくんたち『恋の成就屋』が叶えた恋を壊すのが仕事。

 恋を壊すなんて簡単。人は恋が叶った途端、今度は相手に愛されてるか不安になる。不安な気持ちは嫉妬や疑念を生む。そこに少しだけ同調してあげるだけでいい。さらに人の恋には ‟倦怠期” っていう期間が定期的にやってきて、その時を狙えば確実に壊せる。


 『なんでそんな仕事があるんだ』って? 

 別に私は何でもかんでも恋を壊して回ってるわけじゃないよ? 破滅屋にもちゃんとルールがあって、『別れたい』『この恋を終わらせたい』って思ってる人の恋だけを壊してるの。愛し合ってる二人を無理矢理に壊すのはルール違反。



「さて、次のお仕事はどこかな~? おっ! 別れの匂いがしてきたぞ~!」


 私は黒い羽根を羽ばたかせ、別れの匂いがする所へ向かった。するとあるマンションの前に一人の女性が立っていた。


「こんばんは~!」

「キャッ! あ、あなた誰?」

「私はムーン。恋の破滅屋だよ」

「恋の破滅屋?」

「うん! あなたから恋を終わらせたい匂いがしたから手助けにきたの!」

「そっか……。私この恋を終わらせたいんだ……」


 ん? 何だかいつもと違うぞ?


「こんな所で立ってないで、彼ピの所に行けば? このマンションに住んでるんでしょ?」

「うん……。でも今はダメ」

「なんで?」

「奥さんがいるから……」

「え? どういうこと?」

「私ね、彼の不倫相手なの」


 不倫? 恋の相手がいる人と恋してるってこと? なんでそんなことになってんの? 確か恋の成就屋は、不倫や浮気関係を叶えることは禁止されてるはず。


「ねぇ、奥さんがいる人に恋しててもあなたが傷つくだけだよ?」

「でも、『もうすぐ奥さんと離婚してくれる』って……」

「……それ本気で信じてるの?」

「……」


「分かった! 一緒に確認しよう!」

「えっ!? えっ!? キャー!!」


 私は女性をひょいっと担ぐと、一気に空に向かって飛んだ。そしてある部屋の前で止まり、二人で中の様子を覗いた。

 オシャレなインテリアでコーディネートされた部屋。中には夫婦とみられる男女が一組いた。男女はソファーに並んで座り談笑している。その女性のお腹は大きくせり出している。男はそのお腹を愛おしそうに撫でていた。


「子どもできてたんだ……。『奥さんとは身体の関係はない』って言ってたのに……」


 女性は声も上げず静かに涙を流していた。


「私たち破滅屋はね、愛し合ってる二人は壊せないルールなの。そしてあの二人からは別れの匂いは一切しない。だからあなたの選択肢は二つ。ここできっぱりと別れるか、傷つき続けながら恋を続けるか。……どうする?」

「破滅屋さん、私の記憶から彼を消すことができる?」

「できるよ。じゃあ記憶にサヨナラして」


 私は女性のおでこに指を当て、彼の記憶を全て抜き取った。



 女性と別れ、彼女から抜き取った記憶を辿る。すると、この恋を結んだ犯人の姿が写し出された。

 真っ黒な天使の羽根。長い髪。妖艶な笑み。それはあの女性にこう名乗っていた。


『私はブラック天使。恋の成就屋だ』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る