第七話 商人『ランド』 二

「あ、あらためまして。俺、いえ私は『ランド商会』商会長をつとめさせていただいております『ランド』ともうします。お互いに認識の違いがあったようで、ははは」

「いやいやゴミ君。僕も悪かったね。ゴミが話すのではなく、ゴミのような人間が話していただけなんて失礼したよ」

「ははは、ご冗談を」

「「ははは」」


 魔技まぎ師工房『カーヴ』の応接おうせつ室でボクとランドと名乗る商人は椅子に座り話していた。

 言わずもがなこの椅子も中々にひどい。

 これも全部買えないといけないか? 一層の事金をばらいて職人の全部投げるのもありだな。


「で、ゴミ君はニアとどのようなお話を? 」

「ゴ……。いえ、私は彼女にお金を貸しているのですが返してほしくはせさんじました」

「しかし何やらこの建物の話も出ていたようだけど? 」

「それにつきましては担保たんぽのようなものです。きちんと払ってもらうための」

「へぇ。幾らかい? 」


 そう言うと少し苦い顔をしながらこちらを見る。

 余程よほど高額なのだろうか?


「……もうし上げにくいのですが白金貨にして一枚になります」

「へぇ。なら……バトラー」

「はい。こちらになります」

「え……」


 後ろにひかえていたバトラーが横に来て袋の中から白く光る金貨を木の机の上に一枚置いた。

 それに驚き固まるゴミ。


「か、確認させていただいても? 」

「構わないよ」


 そう言いながら恐る恐ると言った顔でそれを手に取る。

 目の前まで持ってきて偽造ぎぞうでない事を確認していた。

 先にくぎをさしておくか。


「その白金貨の出処でどこるは冒険者ギルドだからね。もしそれが偽造ぎぞうなら冒険者ギルドが偽造ぎぞうを行っていることになる。なにやましいことは無い。確認してもらったらわかることだ」


 そう言いながら腰にあるアイテムバックに手をやり冒険者証を彼に見せる。

 すると驚きと共に顔色が青くなっている。

 いやはやゴミとはここまで顔色を青く出来るのだな。再発見だ。


「そ、それはSランク冒険者のギルドカード! 」

「Sランク?!! 」

「で、信じるのかい? それとも冒険者ギルド全体に疑いを掛けるのかい? 」


 ギルドカードと白金貨を何度も見て唇をかみしめながらゆっくりと白金貨を机の上に置くゴミ。


「ボクが立て替えておくよ。これでいいでしょう? 」

「え?! 」

「……しかし」

「何か問題でもあるのかな? あ、借用書しゃくようしょとか書類ある? 取り立てに来たってことはあるはずだよね? 」

「くっ!!! 」


 愉快ゆかい愉快ゆかい

 本当にくやしそうに自分の小袋の中から二枚の紙を出している。

 紙が震えて落ちそうだ。


「……こちらになります」


 渡してきた借用書しゃくようしょを取りよく読む。

 と、言うかこれって。


「これ借用書しゃくようしょじゃないよね? 」

「え?! 」

「いやだって相手側のサインがないし」

「そ、それは書き忘れただけで」

「それに細かいけどこの下の方。小さく書いてるけど日に日に金額が上がっていくように書かれている。悪質あくしつだね。これは領主様、いや商業ギルドに言った方が良いかな? 」

「それだけはおやめください!!! 」


 その場で土下座という奴をしだすゴミ。

 確か大和やまと皇国の文化だったか?


「なんでやめないといけないのかな? 完全に国がさだめた上げはばをかなり上回っているよね? 」

「そ、それはご領主が」

「なら領主とやらに聞いてみようか」

「お願いします! やめてください!!! 」

「いやだから何で」


 ちょっとかまをかけたつもりなんだけど案外あんがい簡単に引っかかってくれた。

 無論ボクはこの領地のさだめている上げはばなんて知らない。

 だけれども彼の反応でこれが法外ほうがいというのが良く分かった。これで一つ勉強した。

 ま、こうやって人の人生をくるわせてきたんだ。自業自得じごうじとく


「まぁいい。何にしろ、借金しゃっきん完済かんさいということでいいんだよね? 」

「もちろんですとも」

「じゃ、証明しょうめいできるものを何か」

「シャル。ならばこういうのは如何いかがでしょうか? 」

「言ってみて」

「ゴミのゴミやかたに行き証明書しょうめいしょ発行はっこうしてもらうのです。しかしシャルはこの工房でやることがあるはず。私が行きましょう」

「それは良い! 是非ぜひ頼んだよ」

「お任せを」


 それを聞き軽くうなずくとバトラーは青ざめたゴミを見つめていた。

 最初の衝撃が強かったのだろう。ゴミの顔色が青を通り越して白になっている。


 ……。一応向こうであまり暴力を振るわないように言っておこうか。損害賠償そんがいばいしょうとか来たらめんどくさいし。


 バトラーはにらみつける。

 只々ただただにらみつけている。

 それだけで人を殺せそうだ。

 まぁやろうと思えばできるのだろうけれども。

 このゴミは運がいい。ボクが隣にいるからまだ生きているのだから。

 もし野生のバトラーに出くわしたらそこで死が確定だろうね。


「そういうことで」

「あ、ああぁ……」


 声にならない声を上げ動かないゴミを軽く持ち上げたバトラーが扉の向こうへ行こうとする。

 それを少し止めて軽く耳打ちをして扉の向こうへ行くのを見送った。



「ありがとうございました! これで一先ず何とかなりそうです! 」

「いやニアね。これからもまだまだ大変なのわかってる? 」

「ふぇ? 」


 そう指摘するとわかっていないように首をかしげた。


「一時的にあのやからしのげたかも知れないけどこの先妨害があるかもしれないよ? 」

「え、でもさっき」

「あんなの一時しのぎにしかならないよ。それに一応ボクに白金貨一枚りている状態だからね? 」

「が、頑張って返します! 」

「頑張るのはいいけれど、本当にどうするの? 」


 問い詰めると黙ってしまった。

 しかし本当の意味で解決になっていないのは間違いない。

 まずあの手の者は次の手を打ってくる。それも悪質な方法で。

 それを回避すべく即座そくざに、そして強力なさくが必要になるんだけど。


 ん~、と少し腕を組んでいると何か覚悟かくごを決めたのかニアはボクを見上げた。


「お願いします! 魔技まぎを教えてください!!! 」

 

 そう言い彼女は少し震えながら勢いよく頭を下げた。


「魔技を教える、ね。何の為にかな? 」

「もちろん技術を高めてお金をかせいでお返しする為です」

「でもすぐに効果があるわけではないし」

「もちろんさくはあります! 」


 そう言い彼女はそのまま部屋を出ていった。

 何かをとりにいったのかな。


 まぁ確かにボクの技術と彼女の技術は相性あいしょうがいいだろう。

 何せ彼女の父に技術を伝授でんじゅしたのはボクだ。

 だから彼女に技術を渡してもそれが弊害へいがいになるようなことは少ないと思うのだが。


 タタタ……。


 手に紙のようなものを持って部屋に来る。

 そしてそれをボクに勢いよく見せた。


「ルーカスの町で行われる魔技職人によるコンテストです」


 ほほう。

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