第36話 マリアが来た(1)
俺も4歳だ。
という事は姉さんも5歳になる。
5歳になると教会の学校に通う。
3歳からお手伝いや習い事が始まり、4歳になると男は水汲み、女の子は掃除や料理を習い始める。
6~8歳になると家事を任せて、子育てを終えた妻らが手仕事か、どこかに働きに行くようになる。
8歳になると弟子入りや工房入りとなり、15歳まで腕を磨く。
女の子は13歳くらいから嫁入りだ。
姉さんが居なくなり、俺は平和だ。
朝、起きると水瓶に水を補充し、床の掃除、桶に入れてある洗濯物に
詠唱のみで時間が掛かってもいい場合は生活でもガンガン魔法を多用するのが賢者の世界だ。
魔法が扱える人の数が違ったから仕方ない。
攻撃魔法は使えずとも生活魔法を使う民が多かったのだ。
その分、科学が発達していなかったと書かれていた。
家の用事を終えると菜の花畑に見に行った。
今年も満開の菜の花に満足だ。
沢山の油が取れる。
巡回をしながら畑に水やりをする。
水槽にも水を補給しておいた。
一度、家に帰って食事を取ってから再び畑に戻る。
午前中はノンビリと日向ぼっこだ。
畑中に魔力を循環させて精霊を呼んでおく。
昼から下の兄のちゃんばらごっこや姉さんの世話で大変なのだ。
「遊んでいると普通の子供にしか見えないのに・・・・・・・・・・・・」
担当官さん、それは違う。
俺は下の兄や姉さんの世話をしているんだ。
子守は体力勝負なんだ。
畑の管理は管理人さんとその部下に任せている。
元農夫さんは管理さんとなり、部下を6人も雇った。
もちろん、俺が魔法を使える事は誰にも話さない事を条件に雇っている。
朝の手入れで顔を合わすが、霧のような雨に驚いている。
午前や午後の手伝いのオバさんとその子供がやって来る。
魔法は見せないようにしている。
寝転がっているだけの俺を見て、魔法を使用しているとは誰も思うまい。
さて、管理人さんらの住まいはボロい土壁の公民館だ。
粘土を積み上げましたという安普請の壁に、雑草を鞣して作ったあり合わせの藁葺き屋根が粗末だ。
ザ・下層民の住まいだ。
「アル君、中身は役所と変わらないわよ」
「自慢の一作です」
「もう、何も言う気力が湧かないわ」
完成させた担当官さんの第一声だ。
部屋は天井のない吹き通しだ。
部屋は壁で仕切っただけにして、屋根を二段にして昼間は太陽の光が入るようにした。
井戸付きの台所、全員で食べられる大食堂、会議室、事務所、大型の暖炉を完備させた。
職員の部屋には二段式のベッドを置き、衣装タンスと机を置いた。
ほとんど土魔法だから費用はタダだ。
すべて土造りなので、冬は寒いと思うが隙間風の心配はない。
食堂の暖炉の後ろに部屋を作っているので、暖炉を消さなければ、部屋はほんのりと暖かいハズだ。
薪代は経費で落とせる。
壁に所々にかんらん石を埋めて、朝になるとうっすらと壁が光る仕様だ。
もちろん、日本式の玄関で靴を脱いでスリッパに履き返させ、桶の水で足を洗ってから家に入れされるのを徹底させると決めた。
この一年で魔力量が増えた事もあり、地下に坑道を掘るに比べると楽な冬の手仕事だった。
子供達にも藁のような雑草を乗せるとか手伝って貰ったので、子供小屋を併設して公衆浴場も造って見た。
実は、俺が風呂に入りたいだけだ。
井戸から手押しポンプで水を補充すると、雑草を燃やす窯がそのまま風呂釜になる。
野焼きから窯焼きに進化させた。
皆の仕事が終わる頃にはお風呂も沸いている。
奥さん・子供と男衆の時間を分ける。
男衆は後だ。
昼以降には学校から帰ってきた姉さんがいるので、俺の周りにハーレムは完成しない。
別に欲しくないけどね。
仕事終わりに風呂に入って至福の時間を過ごす。
雑草から作った麻みたいなタオルで拭くのがちょっと痛い。
わら半紙の代わりを作ろうとして失敗した奴だ。
雑草の繊維はゴワゴワしているのか均一にならず、モコモコの紙が出来た。
水を吸うので紙タオルだ。
紙は諦めた。
繊維同士の結び付きを強めると、緑のモコモコ雑草麻布の完成だ。
風呂上がりのタオル代わりに使っている。
出来れば、綿を栽培して綿のタオルと布団を作りたいと考えている。
綿の種を頼もう。
日が暮れる前に帰宅する。
今度は姉さんが母さんの手伝いで料理を作る時間に間に合わせる。
何故か、料理には俺も付き合わされている。
上の兄は3日に一度は親父の手伝いという弟子入り前の準備が始まった。
冒険者になると決めている下の兄は手伝っていない。
職人になるつもりならば、どこかの工房を紹介して貰える。
親父の場合は、自分で弟子入り先を見つけて頼み込んだ。
自分で探すのは希らしい。
我が家の玄関の前に綺麗な純白のワンピースを着た女性が立っていた。
東の街道から戻って来た俺と女性の目があった。
女性が猛然と突撃して来た。
『アルフィン様、お会いしとうございました』
膝が汚れるのも気にせずに彼女が俺を抱き締める。
姉さんの目が釣り上がり、手を割り込ませて引き離そうと頑張っている。
「ア~ルから離れなさい」
敵意があれば、姉さんは容赦なく払いのけただろう。
だが、彼女は好意を振りましていた。
しかも綺麗なワンピースを着ていたから姉さんも
偉い人に怪我をさせると、大変な事になると担当官さんから教えられていたからだ。
「痛いです。放して貰えませんか?」
「失礼しました」
彼女が手を緩めて放してくれると、姉さんが間に入って来た。
「あんた、誰よ?」
「貴方がアネィサーちゃんね。聞いているわ」
「私は知らないわ」
「これは申し訳ございません。マテュティナ・ツー・レムスと申します」
汚れたドレスを持ち上げて貴族の挨拶をやって来た。
その後ろから東の街道をばく進してくる馬車が止まり、担当官さんが降りてきた。
「マリア様。馬車を取りに行っている間に勝手に行かないで下さい」
「御免なさい。もう待ちきれなかったのぉ」
「マリア様に何かあったらどうするつもりですか?」
「従者は護衛もできるから大丈夫よ」
「国王の姪御が襲われたというだけで私の首が飛びます」
「大袈裟よ。私は只のレムス子爵夫人よ」
なぁ、国王の姪御って、何でそんな人が家に来るんだ?
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