第18話

今、京香は何を考えてるんだろう。


写真を見て、僕の顔だったり雰囲気だったりを何となく理解して、どんな気持ちなんだろう。


健太にメールが返ってきたあの日から、時間が経つとドキドキもおさまってきて、なくなった部分に不安が流れ込んでくる。


そう考えながら、今日も僕はばあちゃん家に向かう。


パソコンを起動し、メール画面に進む。


京香からメールが来ていた。


嫌な予感がして、身体の深いところがザラザラする。


僕のいない隙を見計らって連絡してくるなんて、都合の悪いことがあるんじゃないだろうか。


そう思いながら、メールを開く。


「健太くんからメールが来たよ!やっと顔見れて嬉しかった。けど、あんまりレーサーには見えなかったかな(笑)」


どうやら徒労に終わったようで、太ももの力が抜ける感覚を持った。


色々考えすぎなのかも知れない、と安堵した。


そして、深呼吸して返信を打つ。


「丁寧に返事までしてもらって、ありがとう!健太も良い子そうじゃん、って言ってたよ」


「やっと京香もヒロくんを見れたし、これでイーブンだね(笑)」


「ガッカリしなかった?」


一番聞きたかったことをストレートに表現してみる。


「しなかったよ!結構かっこいいじゃん!」


「本当に?」


「ほんとだよ!変だったら連絡するのやめようって思ってたけど(笑)」


「ひど!けど、連絡が来てるってことは大丈夫ってことかな?」


「そういうことだね(笑)また、よろしくね(笑)」


「まぁ、とりあえずそれならよかった(笑)」


「ねぇ、今少し電話できる?」


「そうだね!一度話してみたいと僕も思ってたんだ。電話番号教えてもらっても良い?」




呼び出し音が続く。


喉から手が出るほど、とはよく言うが、


口から心臓が出そうなほど。


ドキドキした。


ひょっとして、ここまでがずっといたずらだったら?実は相手はおっさんで最初からだまされてた?


今までの行動全てを瞬時に振り返ってみたものの、それを覆せるものはなかった。


だけど、それでもよかった。


その時はその時だ。


とにかく。


京香の声を聞いてみたかった。


「・・もしもし?」


女の子の声だった。


緊張した、か細い声だった。


自分の鼓動で一瞬耳鳴りがした。


「もしもし、京香・・さんですか?」


電話の奥で笑い声が聞こえる。


「(笑)京香さんって、なにさ!(笑)そうだよ、京香です。はじめまして。」


本人だと分かったからか、一言声を発したからか、耳鳴りはすぐに治まった。


気付かれないように、深呼吸をしてみる。


「よかった!僕は、拓己です」


「アハハハ(笑)やめてよ、もう!英語の授業みたいじゃん!」


「緊張したよ笑」


「まだしてるしょ(笑)」


「いや、だいぶおさまったよ!」


「ほんとに?ずるいじゃん、京香だけまだ緊張してる(笑)」


「声聞けて、嬉しいよ」


「京香も、嬉しいよ!それにしても、変な電話番号だね(笑)」


ピンと来なかった。確かにばあちゃん家の電話番号は規則正しい数字が並んでいた。


「01から始まらないの?」


「何それ?」


「電話番号だよ」


「あぁ、市外局番のこと?」


「難しい言葉使うね(笑)多分、それ(笑)」


市外局番は決して難しい言葉ではないと思うが。


「それはそっちの地方だけじゃない?」


「そうなの!?知らなかった」


京香も僕と同じで、狭い世界で生きてるんだな、とそれだけでかわいらしく感じた。


それと同時に、お互いが知らない世界で生きている事実に改めて気づいてしまう。


何だか、胸の奥にズシンと重いものが落ちる気がした。

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