現想異世界「げんそういせかい」

イナロ

いやに晴天な空の下で

 目を覚ますとそこは瓦礫の海と黒煙が立ちのぼる崩壊した世界がそこにはあった。


「……」


 ここはどこだ?

 俺は……。


「……俺は誰なんだ?」


 なんで俺はこんな惨状が広がる場所にいるんだ?


「誰か。……誰かいないか!」


 不安が心を一杯にして今にも溢れてしまいそうになりながら何か無いかと声を絞り出す。

 聞き取れるかどうか分からない程のか細く呂律の回っていない声は周囲に広がり、静まりだけかその場に残った。


 手は震え、足に力が入らない。

 寒い。


 身体を震わせ、心から溢れる不安から自分を守ろうとする。


「大丈夫、大丈夫、大丈夫……」


 自分は誰でここはどこでこの惨状は何なのかまったく分からないこの状況に更に混乱が加速する。


「……誰か」


 縋る何かを求めて立ち上がり、瓦礫の中を進む。


 足を一歩進めるとチカチカするほどの眩しさに目が染みる。


「太陽……か」


 一面真っ暗な世界かと思ったが、空には太陽があった。


 見慣れたというか分かる物の存在を発見したからなのかほんの少しの微かな安心できる存在を知れたことで心に余裕が生まれた。


 白黒の世界は瞬く間に鮮明な世界に変わった。


 そして足元にいる存在に気が付いた。


 周囲はこんな惨状なのに腹を出して寝ている存在に。


「えっと…‥痛たたた」


 何かを思い出しそうな。


「引っ込んだか」


 何か思い出しそうで思い出せない。

 霧がかかってよく見えない感じだ。


「お前はここで何をしているんだ?」


 そう言って寝ている存在を起こした。


「……クゥ~ン」


 起こされるのか嫌なのか、声を上げてまた寝てしまった。


「起きろって。は本当に……」


 俺はこの生き物の存在を知っている?

 寝ている姿に違和感はない。


 以前から知っているような気もする。

 けど、俺の中にある常識がコイツの存在を認められない。


 気持ち悪い……。


 俺の感情と知識が噛み合っていないようだ。

 感情ではこいつは俺の友だと感じるが、俺の知識ではこいつは存在すらしない生き物であるはずなんだ。

 なんで目の前にいるんだ……。


「ドラゴンの子供……。ファンタジーとかおとぎ話とか2次元とか架空の生き物のはずなのに、何で……」

「クゥ~……。クゥ~……。クゥ~……」


 目の前の生き物が何なのか不安で思考が止まりかけるが、鼻提灯を作って寝ている偉大さも威厳も怖さもないその姿を見たら真面目に考えるのが馬鹿らしいと思えてきた。


「ッフ……」


 いつしか寝ているドラゴンを見て笑みを浮かべていた。


「起きろ。置いてくぞ」

「グガァ!?」


 俺の言葉に驚いて飛び起きる子供ドラゴン。

 寝ぼけているのか辺りをキョロキョロと観察している。


「プギャ!」

「おはよう」


 笑顔……? なのか何なのか分からないが俺に顔を向けて挨拶したので多分おはよう的な意味合いだろうと思って適当に返事を返した。


「プギャ~?」


 なんだか俺を観察しているようだ。


 見やすいように屈み少しでも見上げる角度が高くないようにしてみた。


「プギャ! プギャプギャ!」

「すまない、何を言ってるのか分からない」

「プンギャ!?」


 メッチャ驚いてる。

 意思疎通はできる程度の知能はあるようだ。


 それに襲ってもこない。


「えっと。理解できるかどうか分からないけど、この惨状になる前の記憶が無いんだ」


 正確には10分とかそこら前からの記憶はない。


「クゥ~……」


 悲しそうな声を上げて顔を地面に落とした。


 何の疑問も違和感もなく、ドラゴンの背中に手を添えて優しく撫でた。


「ごめんな。多分、君の事も以前の俺は知っていたのだと思うんだけど、俺は君をまったく知らないんだ」

「クゥ~……」

「だから……」


 できる限り優しく、噛みしめるように声を出す。


「俺と友達にならないか? 俺、今記憶なくてメチャクチャ寂しんだ。一緒に行こう」


 言葉にすると少しばかり恥ずかしい。

 照れ隠しに髪をかいたり、首に手を添えたりして誤魔化す。


「ピィ~……」


 ドラゴンは何故か泣いてしまった。


 そんなに俺と友達になるのが嫌なのか?

 結構ショックなんだが。


「よしよし」


 泣き止むまで背中をさすり続けた。


 時間にして5分ほどで泣き止んだ。

 感情表現が豊かなドラゴンだな。


「プギャ!」

「お! 元気出たか」

「プップギャ!」


 前足を上げて元気をアピールしているようだ。


 レッサーパンダの威嚇を見ているようまったく怖くなくてとても可愛らしい。


「レッサーパンダ? 以前どこかで見聞きしたのだろうか?」

「プギャ?」

「なんでもないよ」

「キュゥ~」


 名前が無いと何かと不便だな。


「以前はなんて呼ばれてたんだ?」

「プップギャ~」

「ぷっぷぎゃー?」

「プギャ! プップギャ~!」


 怒ってる。

 可愛い。


「ん~記憶が戻るまで仮の名前でも付けようかな」

「キュ」

「……ドラ吉」

「プギャ!」

「痛!? 尻尾は反則だろ」

「プギャ!プギャ!」

「分かった! 真面目に付けるから!」

「プップギャ~!」

「はい、すいません」


 意味は分からないけどとりあえず謝っておこう。


「ポチってのかどうだ?」

「……プギャ~」


 スッゴイ嫌そう。


「ん~記憶がないから全然言葉が出てこないんだ。ごめんよ、ポチ」

「……キュゥ~」


 スッゴイ遠く見てる。


「ポチはイヤか?」

「プップギャ」


 渋々。

 本当に渋々。

 苦いお茶を飲んだように渋々頷いた。


 ポチ良いと思うんだけどな~。


「よし、とりあえず行こうか、ポチ」

「プギャ!」


 彼は知る由もなかった。

 自分がいかに曖昧な存在か。


 行きつく先の結果を。


 行きつく先は……。

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