林檎

お父さんに、唐揚げとジャーマンポテトを渡しに行く。


「葵、目が覚めてよかったよ」


「お父さん、ありがとう」


「千秋君も、ありがとうね」


「いえ!」


そう言って、千秋と私はお父さんに唐揚げとジャーマンポテトを渡した。


「食べるのは、出来るけど!ほとんど寝たきりだろ?だから、葵の顔も見れなかったよ」


「気にしないで」


「本当によかったよ」


お父さんは、ボロボロ泣いていた。


「孫も見せれないのに、死んじゃったら罰が当たるよね」


「お父さんは、結婚式見れた事、千秋君みたいな素晴らしい人と結婚してくれただけで充分だよ」


「お父さん」


私は、お父さんにしがみついて泣いていた。


「葵、生きててくれてありがとう」


「ううん」


「じゃあ、久しぶりに二人の料理を食べようかな」


「うん」


お父さんは、唐揚げを食べる。


「美味しいよ!」


その後、ジャーマンポテトを食べる。


「美味しいよ!」


ニコニコ食べながら、お父さんは私達二人を見つめてこう言った。


「まるで、別人が作ってるみたいだな」


「えっ?」


「頭をうったんだ!仕方ないな」


「お父さん、どういう意味?」


「美味しいけれど、葵の味じゃない気がしただけだ!気にするな」


「千秋の唐揚げは?」


「あー、千秋君の唐揚げは何か足りない気がするけど。それだって、たいした事じゃないよ!千秋君だって、葵の目が覚めない間ずっと料理を作れなかっただろうから…。仕方ないよ」


お父さんが、そう話し終えた時にお母さんがやってきた。


「それは、そうよ!3ヶ月も意識がなかったのよ!千秋君だって、そうよ」


そう言って、お皿に林檎を持ってきている。


「それ、私と千秋に?」


「何言ってるのよ!葵も千秋君も生の林檎は苦手だって言ってたじゃない」


「そ、そうだっけ?」


「そうよ!だから、二人の付き合ったきっかけはアップルパイだったでしょ?」


「そうだ!懐かしいな!結婚式で流れていたな」


「そうそう!林檎が苦手な二人が唯一食べれるのがアップルパイで!二人で美味しいアップルパイを見つけましょうって約束したんでしょ?」


お母さんは、私と千秋を見つめる。


「本当に、別人みたいね」


そう言って、お父さんに林檎を渡した。


「二人には、アップルパイ買ってあるわよ」


「あ、ありがとう」


「持ってきましょうね」


「うん」


そう言って、お母さんは笑いながら出て行った。

千秋は、不思議そうな顔を私に向けてる。


「どうしたの?千秋」


「ううん!俺、疲れてるんだなぁーって思ってね」


「そうだよ!千秋君。3ヶ月も目が覚めなかったんだ。それは、とても疲れるよ」


そう言って、お父さんは私と千秋を交互に見つめて泣いている。


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