三日前ー

私は、雪那ちゃんを待ちながらぼんやりとしていた。

私は、三日前の千秋との喧嘩を思い出していた。


「千秋は、赤ちゃんが欲しくないの?」


「欲しいけど、無理なら仕方ないよ」


「そんな簡単に諦めたくない」


「諦めたくないのは、俺だって同じだよ!でも、諦めなきゃいけない事もあるんだよ」


「そんなのないよ!世の中に諦めなきゃいけないことなんてないよ」


「あるよ!俺の父さんはどう頑張ったって生き返ってこないんだから」


「ごめん、千秋」


千秋は、父親っ子だった!そんな父親が二年前に他界した。千秋は、どうしても、父親に孫を見せて抱かせてあげたかったと言った。願いは叶わなかったけれど、父親は亡くなる数日前に私との結婚式が見れて嬉しかったと話してくれたと千秋は泣きながら言った。親孝行が一つでも出来てよかったと笑った。


私も千秋も同じ様に苦しんでいるのをわかっていながら…。私は、千秋に酷いことを言ってしまったのだ。


「ごめんね、ちーちゃん」


「ううん、俺もごめん」


「千秋、愛してる」


「俺もだよ、葵」


そう言って、千秋と笑い合った、後に抱き合った。


それでも、諦められなかった。何で、私だけ…。何で、私だけ…。


切望して、切望して、家路に向かっていた。


はずなのに…。


どうしてなのか、私はタナベアオイになっていたのだ。


隣の芝生は青く見えるとは、この事だ!


私は、多分街でタナベアオイを見つけたらいいなーっと羨ましがったに違いない。


でも、いざタナベアオイになってみると、もはや地獄だ!娘に身体を売らせたお金で生活をし、何故か両親に月20万の仕送りをしている。そして、旦那は無職なのだ。それを、タナベアオイ自身も幼少期からさせられていたわけで…。

当たり前のように、この家族にはそれが根付いていて断ち切ることは容易くないと知るのだ。


隣の芝生なんて、覗かなければよかったと今さらながら後悔をしていた。

確かに、二人は可愛いけれど…。娘がおじさんのあれを飲んでいたと思うと、娘に対する嫌悪感が沸き上がるのも、また事実だった。

それでも、この家族を守っていく為にはその選択肢しかないと思うと…。


母親としての不甲斐なさを感じるのだ。兎に角、私に出来る事は千秋に会って私の通帳を持ってきてもらうしか方法が思い付かないないのだ。


それしか、今、この家族を救う方法はないのだ。

千秋は、きっと今落ち込んでいる。だって、三日前に私と大喧嘩しているから!仲直りしていても、千秋は大抵一週間は引きずるのだ!


「ママ、ママ」


その声に、我に返った。


「買ったの?」


「うん」


「じゃあ、帰ろうか」


「うん」


私達は、元来た道を帰っていく。


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