第3話 料理をします

 服を買って家までの帰り道を歩きながら、私達は再びデートの相談をします。

 今度は貴方の方から話しかけてきてくれました。せっかく服を買ったのだから貴方も出かけたい気分になったのでしょうか。


「どこ行く?」

「どこに行きましょう?」

「じゃあ、水族館でいいかな。小学校の旅行で行って知っている水族館があるんだ」

「じゃあ、そこに行きましょう」


 そういうわけで、次の連休のデートには水族館に行く事にしました。わりと近所で私は映画館とかでもいいと思っていたのですが、貴方が決めてくれたのが嬉しいです。

 それに私も水族館というのは小学校の旅行で行ったきりなので楽しみです。もしかしたら同じ水族館で私達はその時に出会っていたのかもしれませんね。

 さて、連休の予定を決めて着ていく服も買ってそれで今日は終わりとは参りません。

 私は気づいていたのです。貴方の家のゴミ箱がカップ麺ばかりということに。そこで私は前もって家に来た時に食材を用意して冷蔵庫に詰め込み、料理する事に決めていたのです。

 家に戻ってエプロンをして包丁を持って野菜を置き、私はさっそく料理する事に致します。大丈夫、料理するのはこれが初めてですが、いろいろ調べてきましたから。

 今は何でもネットで調べられるので便利ですね。


 では、いざ尋常に。勝負!


「うあああああ!」


 何て事でしょう。いきなりお野菜が私の手を離れて転がってしまいました。まな板の端からまったく余裕の表情で私を馬鹿にしたように見上げてきています。

 切れる物なら切ってみろと言わんばかりです。何て生意気な態度なのでしょうか。


「さっきのは準備運動。ここからが本気ですよ」


 私はもうお野菜を逃がさないとさっきよりもしっかりと握り、包丁を構えます。

 さて、どの角度からやってやりましょう。頬や手が震えてしまいます。

 すると私の手から包丁が消えてしまいました。貴方に取られたのです。


「貸してみ」

「は……はい」

 

 貴方がそう言うので私は場所を譲ります。

 料理できるんですか? 私でも難しいのに。なんて不満はただの小娘の浅はかな考えでした。

 貴方はあっという間に野菜を捌いていってしまいます。まるでプロの料理人のような手際の良さに私はただただ驚くばかり。


「貴方は……そんなに料理が出来るのになぜ日頃からしないんですか?」

「ん? めんどいから」

「めんどいから!?」


 そう、貴方はそういう人です。全ての物事を面倒かそうでないかだけで判断する、計算を行う人でした。

 でも、私にそれを責める事はできません。屋敷の食堂で座っているだけでお料理が出てきて、食べ終わって食器を置いておけば使用人が片付けてくれる生活を送っている私には何も言う資格は無いのです。

 ここでも私は何もせずにただじっと座っている事しか出来ないのでしょうか。そんな屈辱に肩を震わせる私に貴方は声を掛けてくれました。


「食器並べといて」

「は……はい」


 そうです、何もせずにただじっと待っているわけにはいきません。ここは私の屋敷ではないのですし、私達は付き合っているのですから。

 私は動く事にします。

 私がテーブルに並べた食器に貴方がお料理を盛りつけていきます。あの野菜からこんなお料理ができるなんてまるで手品のようです。

 私達はテーブルを囲んでいただきますをします。一口食べてすぐに分かりました。


「おいしいです!」

「食材が良かったから」

「……!」


 お料理の腕を誇っても良いのにあなたは自分の実力をひけらかしたりはしません。

 私はもしかして貴方に褒められたのでしょうか。良い食材を選んできてくれてありがとうと。

 嬉しくて美味しくてつい感動しながら食べてしまったのでした。

 それからのお片付けは二人で行いました。貴方は一人でやりたかったようですが、これぐらいのお邪魔ぐらいはさせてもらいます。

 そして、全てが終わった頃にはもうすっかり暗くなっていました。貴方は送っていくと言ってくれましたが、私は一人で帰れると断りました。

 昼は暑いですが、夜はまだ涼しいです。

 さて、これからの予定に向けていろいろ考えなければいけませんね。

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