第2話 服を買いに行きましょう

 私達は家を出てお店に向かいます。私達は付き合っているのでもちろん歩く時は腕を組ませてもらいますよ。貴方の腕は温かくて安心できます。

 貴方はくっつくなよという恥ずかしがる態度を見せるのですが、私は離れてはあげません。恋人同士なのですから遠慮する事は無いのです。

 車の走る大きな交差点を二つばかり渡り、私は駅前の高級ブランド店に行くつもりだったのですが、貴方には心に決めたお店があるようで足が急にそちらへと向かいます。私も引っ張られるようにそちらへと向かいます。


「どこのお店に向かわれるのですか?」

「知ってるとこ」

「そうですか」


 私の予定とは代わりますが、ここは貴方の意見に従いましょう。貴方の事をもっと知りたいですし、お手並み拝見とさせてもらいます。

 やがて、到着したのは庶民的な小さな服屋さんでした。なるほどここで一般の方達はお買い物をなさるのですね。

 私の家では使用人の方達がお買い物をしてきてくれるので私はこうした店にあまり馴染みがありません。両親とたまに行くお店はいつも一流のブランド店でした。

 ここには何が売っているのでしょうか。遠慮せずに堂々と入っていく貴方に私もついていきます。

 その店は庶民的ながらも品揃えは豊富。ブランド店とまでは行かなくても明るくてすっきりしていてそれほど粗末なようには見えませんでした。

 まあ、一流のデザインやファションにこだわりの無い私にそうした物を見る目が無いと言われればそれまでなのですが……

 私はどこを見に行けばいいのか迷ってしまうのですが、貴方には心に決めた物があるようで足が真っすぐにそちらへ向かいます。

 私も力強い確固たる足取りで進む貴方についていきます。

 私はあれが良いな、あのマネキンの着ている服なんて似合いそうだなと思いながらついていきます。

 やがて貴方が足を止めたのはセール品のコーナーでした。さっき私が見ていた物よりも安いです。

 なるほど、私達はともに学生。無駄遣いは出来ないのですね。私もお嬢様と呼ばれる身分ではあっても、やはり学生の身なのでお小遣いは限られてしまいます。

 貴方は真剣な目をして服を選んでいます。私は女の子なのにこうした服はお屋敷の人任せでファッションというものがさっぱり分かりません。真剣な目をして選ぶ貴方の姿に惚れ惚れとしてしまいます。

 私も服を選ぶフリをしながらじっと貴方だけを見ていると貴方が振り返って訊ねてきました。


「これとこれだったらどっちが良い?」

「うーーーん……」


 困りました。違いがさっぱり分かりません。どっちが良いかと聞かれればどっちでもいいとしか答えようがありません。

 でも、私の一存で貴方が決められるのならば無責任な事は言えません。少しでも良い部分を見つけだして、貴方にかっこいい意見というものを伝えなくては。

 でも、本当に分からないんです。世の人々はどんな基準で服を選んでいるのでしょうか。

 私が迷っていると、貴方はそれ以上訊ねはせずにいくつかの服を持って試着室に入ってしまいました。

 ああ、私は駄目な女です。もっと勉強しなくてはいけません。


「これ、どう?」


 貴方はいくつかの服を着て私に見せてくれます。うーん、何ていうかどれも普通に見えます。落胆も感激もしません。こういう物なのでしょうか。

 うわあ、満足のできるリアクションが出来なくてすみません。


「これが一番だったかな」


 私にはよく分からなかったのですが、貴方は満足の行く物が見つけられたようで、それを持ってレジに向かい、会計を済ませました。

 さて、これでデートに良く準備ができましたね。戦いはこれからです。

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