第3話 生死
七月七日
この日は天の神様を怒らせ、天の川の東西に離された彦星と織姫が唯一会うことが許される日である。
パチンコ屋の喫煙所の前で目を開く。やけに周りが慌ただしい。「救急車もうすぐ来るからね」と高齢の女性の声がする。何が起きたかわからないが、僕は猛烈な雨の下で地面を寝床にしていた。
「みなさん、落ち着いてください! この子はうちの子です。あとは私がなんとかしますので……」
父親らしき声が周辺に響き渡る。
周りの人は僕の意識があることと父親がついているということで何もなかったかのようにパチンコ屋へ入っていく。
「大丈夫か? 意識もしっかりしておる。目立った外傷もない。動けんこともないじゃろ? 」
父親が他人事かのように明るい声で僕に話しかけてきた。何が起こったのかイマイチ理解できていない。
「大丈夫だとは思うけれど、頭はすごく痛い。あと体の中がものすごく変な感じがする。なんか重いというか、気持ち悪いというか……」
「何かが入った感じか? 」
「そうそう、その表現がめちゃくちゃしっくりくる」
大事故が起きたとは思えない家族の会話をしていた。
それから数分、僕に何が起きたのか父親から説明してもらった。
「だが、それはただの事故ではない。よく聞け! お前はやっと選ばれたんだよ! 」
急に声を低くし神妙な面持ちで話した。
何を言っているのかさっぱりわからなかった。
「お前ならできる…… これから色々なことが起こる。気を抜けないぞ! だから…… 気を引き締めい! 」
急展開すぎて、話についていけない。
「どゆこと? そもそも雷に打たれただけでしょ? 」
どうでも良くないからすかさず聞いた。
「だから何度も言っておるじゃろ! ただの事故ではないと。お前の中に入ったんじゃよ! 」
「何が? 」
カラカラの口の中で唾を飲んだ。
「言うなれば、神様からの贈り物じゃよ! 妖精みたいなもんかな」
少し笑ってはいるが、目は笑っていない父親がそこにはいた。
結局理解できずモヤモヤしながら帰宅した。
今日もどうでも良くないことが起こった。
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