第2話 七夕

 学校の窓から不気味な黒い雲が町中を覆っているのを見つめていた。

 

 僕は何かに焦っている。

 

 急いで日直の仕事を終わらせ、早歩きで家に帰る。


 焦りの原因は帰宅すると待っていた。


 「遅い! このからなぜゆっくりしておれる? 」

 自宅玄関扉を開けた瞬間に、なぜか意味のわからない理由で父親から怒られる。


 「またいつものところに行くの? 」

 

 「そうじゃ! 当たり前じゃろ! 」


 そう。僕たち親子は今からパチンコ屋へ行くのだ。


 なぜ行くのかわからないがこれが親子のルーティーンであり、こういう日こそがあるらしい。知らんけど。おそらく、父親はこれを「家族サービス」と呼んでいるに違いない。僕は決して楽しいと思ったことはないのだ。


 一人は意気揚々、一人は意気消沈。小雨の中、車を走らせる。

 

 走らせること十五分、目的地に到着した。


 「今日は、かな?」

  父親がニコニコしながら僕の顔を見る。

 

 「って、いつもイケてないみたいじゃん! たまには僕でも勝ってるし!!」


 「そう言う意味じゃないんだよ。」


 「じゃあどういうことなんだよ……」

 父親が意味のわからないことを言い、僕はその意味のわからないことを聞きながら、パチンコ屋に入る。

 

 時刻は午後六時、サラリーマンの仕事帰りの時間帯で、普段も人の出入りが多くなるのだが、今日は異様な感じがする。やけに人が多いからだ。


 すかさず僕はスマホを取り出した。

 「今日は何日だっけな? 七月、、、、七、七夕か。いや、違う、彦星様とか天の川とかの話ではない、七が二つあることに気づけ! 自分! 」

 僕は一人ツッコミをいれながら、事の重大さに気づいたのだった。

 

 あまりパチンコに詳しくない人に説明しておくと、七がつく日はパチンコ屋が還元してくれることがあるらしい。今日みたいに二つもつけばパチンカスは大盛り上がりというわけだ。


 学校での疲れとストレスで頭がおかしくなりそうになっていた僕は少しの期待と共に席に座る。


 一時間経ってもいっこうに当たる気配がない。チャンスさえもこない。


 疲れもピークとなり、気分転換でもしようと外の喫煙所へ向かった。

 うんこ座りをしてタバコを吸う。


 雨が急に強くなってきた。


 今日も負けるという不安と疲れから眠気がマックスになったそのとき、、、



 「ゴロゴロ、ガシャーン、ビリビリ ビリビリ」


 「バタン」

  僕はその音と同時に地面にうつ伏せで倒れこんだ。


 「やっとだな……」

  その横で父親が微笑んでいた。



 

 

 

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