第7話 新メンバー登場!(2)

 あっと言う間に一週間が過ぎ、グリーンの研修期間の最終日になった。研修期間中は珍しく出撃が一度もなく、平和な日々を過ごしていた。


「あーあ、先輩のみなさんと仲良くなれたのは嬉しいけど、一度ぐらいは出撃したかったな」


 グリーンがテーブルに頬杖をついて、不満そうに呟いた。


「平和が一番ですよ、円ちゃん」


 ピンクがグリーンの肩に手を置き、優しく諭した。その瞬間、天井のパトランプが回りだして警報ブザーが響く。


「みんな、出撃だ!」

「はい!」

「サイコチェンジ!」


 六人は声を合わせて叫び、腕のリングのボタンを押して戦闘スーツに変身する。グリーンも他のメンバーと色違いのスーツに変身した。


 グリーンがボタン押し間違わないかと注目していたブルーは、後ろからブラックに頭をどつかれた。


(もしかして、若葉も人の心が読めるんだろうか?)



「みなさん、敵の前に登場する時に、決め台詞やポーズは決まっているんですか?」


 ヘリコプターの中でグリーンにそう聞かれて、みんなはきょとんとして顔を見合わせた。


「それって、必要なのかい?」


 レッドがみんなを代表してグリーンに訊ねる。


「やっぱりそうなんですね。どの動画観ても出て来ないから、もしかして無いのかなって思ってたんですよ。これ、現地に着く前に覚えてくださいね」


 グリーンはポケットから紙を取り出し、一人ずつに配る。紙にはそれぞれの決め台詞とポーズが書かれていた。


「これでもっと人気が出ますよ!」


 みんなはそんなものかと思いつつ、一生懸命暗記した。


「そう言えば大地、今日の閃きは何?」

「ああそうだな……」


 ブラックに聞かれて、ブルーは閃け閃けと念じた。


「ラッキー……」

「えっ? ラッキー? 今日は幸運なの?」

「えっ? ああ、そう、今日はラッキーな日だと思うよ」


 ブルーはキョドりながらそう答えた。実は閃いたのは「ラッキースケベ」。俗に言う、偶然エッチな状況に遭遇するってやつだ。どんな状況でそうなるのか見当も付かないが、ブルーはラッキーで止めておいて良かったと思った。


(全て言ってたら、また若葉にどつかれてしまうからな)



 今日は敵が小学校のグラウンドに出現したとの情報が入り、現地に向かった。


 グラウンドには多くの戦闘員たちが小学生を拉致しようと追い回している。メンバー達はヘリコプターでグラウンドに降り立ち、それぞれ遊具の上に登った。


「先輩のみなさん、子供たちが見ていますよ! カッコ良く決めてくださいね!」

「おう!」


 グリーンの言葉にみんな掛け声で反応する。


「ワルダ―、そこまでだ! 貴様らの好きにはさせんぞ!」


 まずはレッドがワルダ―一味に向かって叫ぶ。子供も戦闘員も動きが止まり、レッドの姿に注目する。


「この世に悪がのさばる限り、熱く赤い血が騒ぎ出す。俺が居る限り、お前らの好きにはさせない! 光速の貴公子、サイコレンジャーレッド!」


 まずはレッドがのぼり棒の上に立ち、天を仰ぐようなポーズで叫ぶ。


「汚い心の悪だくみ。私の前では隠せない。あなた達の計画は全て私が叩き潰します! さとりの貴婦人、サイコレンジャーピンク!」


 ピンクは鉄棒に寄り掛かって、気品溢れる立ちポーズで叫んだ。


「固い意思と硬い肉体。遮る悪は壊して進む。俺の邪魔をする悪は全て壊してやる。戦う正義のブルドーザー、サイコレンジャーイエロー!」


 イエローが滑り台の上で、両腕を持ち上げたポーズで叫ぶ。


「純粋な黒は正義の証。私の漆黒の瞳には全てが見える。お前らの濁った黒は目障りだ! スキャンアイレディ、サイコレンジャーブラック!」


 ブラックはうんていの上で恍惚とした表情を浮かべ、拳を突き上げ叫ぶ。


「す、全てのことは勘任せ。信じるものは第六感。えっと……今日も閃け閃け……勘が良いだけの男、サイコレンジャーブルー」


 順番が回って来たが、ブルーは余った遊具が見つからず、グラウンドをうろうろしていた。しかも決め台詞を覚えきれなかったので、紙を見ながらぶつぶつ呟くだけだった。


(……でもなんだこれ? みんなと全然違うくない? 俺だけカッコ良くない気がする)


「悪に見せる姿など無し……」

「ちょっと円ちゃん、俺だけみんなと違う気がするんだけど!」

「ちょっと大地先輩、邪魔しないでくださいよ!」


 ブルーはジャングルジムを登りながら、頂点に立つグリーンに向かって叫んだ。


「俺だけみんなと違ってカッコ良くないじゃないか!」

「だって、大地先輩のじゃそんなことしか書けない……」


 ブルーがジャングルジムの頂上のグリーンに追い付いた時、下から小学生の集団が嬉しそうにキャアキャア叫びながら登って来た。四方八方から登って来るので、どこにも逃げ場がない。みんな笑顔なのだが、逆にそれが二人に恐怖感を与えた。


「キャー!」


 グリーンは余程怖かったのか、悲鳴を上げてブルーに抱き着く。ブルーはバランスを崩して、グリーンと抱き合ったまま下に落ちてしまった。


「痛ってえ……円ちゃん大丈夫か?」


 ブルーが声を掛けたがグリーンから返事がない。下に落ちたショックで気絶したみたいだ。そんな状態なのに、落ちて倒れているブルー達目がけて、子供たちがまたキャアキャアはしゃぎながら群がって来る。


「やめろ、怪我するから危ないぞ!」


 ブルー達は子供たちにベタベタ触りまくられる。そうしているうちに、何かの拍子にグリーンのリングに触ってしまったようだ。グリーンの服がステルススーツに変わってしまい、見た目は全裸になってしまった。


「駄目だ、駄目だ! お前らにはまだ早い!」


 ブルーは子供たちを押し退け、裸を見られないようにする為に、グリーンに覆い被さった。その瞬間、ブルーの目にスレンダーで陶器のようなグリーンの裸体が映る。


(これはラッキースケベで許して貰えるよな)


 子供たちが次々上から襲い掛かってくるので、ブルーは手が動かせない。グリーンのリングのボタンを押せれば良いのだが、どうにも出来なかった。

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