第5話・「あっ、やっとあたしが主役のストーリーにもどりました」
阪名華奈は、自分の部屋で室内着姿でボーッとしていた。
階段の下の方から、母親の声が聞こえてきた。
「華奈、変なお友だちが来ているわよ」
階段を上ってくる足音が聞こえ、ドアの前で舌打ちする声と。
「チッ、バマンパーンチ」の、声が聞こえ、ドアが破壊され。
波形のトサカ仮面をかぶったスタジアムジャンパーにデニム姿の、等身ヒーロー『チ・バマン』がズカズカと華奈の部屋に入ってきた。
ボーッとしている華奈が、壊されたドアを見ながらチ・バマンに言った。
「あなたは、そうやっていちいちドアを破壊して部屋に入ってくるのか……チ・バマン」
「チ……バマン、まぁその呼び名でもいいけどな。どうせ、来週になればドアは直っているからいいだろう……なんか元気ないな?」
「ずっと、別の誰かのストーリーの中に居るような気がしていて……今日はなんの用ですか?」
「喜べ、やっと華奈が乗る変身ヒロイン専用の乗り物が完成したぞ」
「バイクですか?」
「おまえ、大型バイク免許も原付免許も持っていないだろう、窓から家の玄関を見てみろ、オレからのプレゼントだ」
華奈が窓に近づいて、玄関を見下ろすと一台の自転車があった。
前カゴが付いた自転車の後輪にはアニメキャラの痛い絵が描かれた、『ディスクホイール』〔ディスクカバーとホイールが一体になった、スポークがないモノ〕が付けられている。
ディスクホイールに描かれていたのは、華奈が推している、アニメのさわやかなイケメン男子キャラだった──いわゆる、痛チャリが玄関に目立つように置かれていた。
頬をヒクヒクさせている華奈に、チ・バマンが言った。
「気に入ったか、おまえが推しだと話していた男子キャラの痛チャリだぞ……特注だったんだからな、料金は阪名家の口座から引いてもらったから」
チ・バマンは、なぜか阪名家の銀行口座から、自分のスマホのQRコード決済で支払うコトができた。
「さすがに変身ヒロインが毎回、土管から出てくるワケにもいかないからな」
華奈の母親が運んできた特上の出前寿司を、チ・バマンは遠慮なく食べる、この出前寿司も阪名家の口座払いだった。
大トロ寿司を食べながら、チ・バマンが懐かしそうに語る。
「オレがヒーローやっていた頃に、ナスとスマホとホンドタヌキの合体怪人『ナスマホンドタヌキ』という名前の怪人がいてな……憎めないヤツだったから、見逃してやったら。今や麻婆ナス丼チェーン店の大企業社長だぞ、世の中わからないモノだな」
「はぁ……そうですか」
一ミリも興味が無い素振りで、チ・バマンの話しを聞いていた華奈の髪の一部がアホ毛化して跳ね上がる……ピンッ。
「あたしに、アホ毛が?」
甘エビの握りを食べながら、チ・バマンが言った。
「おっ、怪人レセブターもちゃんと反応したな」
「怪人レセプター?」
「近くに怪人が現れると、跳ね上がって教えてくれる……よし、華奈! 痛チャリで初出動だ!」
「イヤです」
「おまえに拒否権はない、そのアホ毛が立った時は自動的に、等身ヒロインになる」
「どういう意味で……あっ、体が勝手に動いて」
華奈は、手足を振りながら部屋を出ると、階段を下りて、痛チャリのところまでやってきた。
通行人が見ている中、華奈は変身ポーズをする。
「変身……勝手に変なポーズが」
華奈の腰に変身ベルトが現れる、二階から見ているチ・バマンが言った。
「ちなみに、その変身ベルトが戦闘中に外れて、敵の手に渡って装着すると敵も変身できるからな」
「そんなぁ」
華奈の姿が、首から下を裸にも見えるスキンスーツと、手袋と変身ベルトとブーツ姿の等身ヒロインに変わる。
赤面しながら、華奈は通行人に言った。
「ち、ちがいます! 裸じゃないんです、胸のところにプロテクターみたいなのがあるでしょう……こういう模様なんです」
華奈は、言い訳をしながら痛チャリに乗って怪人出現の現場に向かった。
◇◇◇◇◇◇
華奈が到着した現場には、ザコ男子戦闘員を従えた逆転バットが、腕組みをして立っていた。
逆転バットが言った。
「来たわねバァット、変態露出狂女……爆乳戦隊のみなさん、変態が現れましたよぅ!」
どこからか跳んでくる爆乳戦隊の、オ・姉妹ジャー。
爆乳パワーが華奈を見て言った。
「裸?」
「裸じゃありません! こういう模様なんです! 信じてください!」
爆乳ソードが言った。
「どう見ても、変態の痴女……痴女許すべからず、剣豪の力をお借りします……江戸三大道場の一つ士学館【桃井春蔵】鏡新明智流」
爆乳アニマルも戦闘体勢に移る。
「野生の力をお借りします……哺乳綱単孔目カモノハシ科カモノハシ属【カモノハシ】……哺乳類なのに卵、産んじゃいます、後ろ足の蹴爪の毒に注意」
爆乳シノビ。
「あやかしの力、お借りするでござる……妖怪【夜泣きジジイ】お願いするでござる……夜にぐずって泣く老人妖怪でござる」
爆乳フュチャー。
「近未来の力、お借りするデス……【
爆乳パワー。
「古代の力、お借りします……古代生物【オパビニア】カンブリア記……うぅ、なにコレ……恐竜じゃないし。単眼が多いし、象の鼻みたいな口あるし……なんか悲しくなってきた」
爆乳トレインは、乗り物選びで悩んでいる。仕方がないので、戦隊の決めセリフを呟く。
「
オ・姉妹ジャーの波状攻撃にブチキレる華奈。
「普通、一人に対して、複数で攻撃? そっちがその気なら、こっちにも考えがある」
華奈が腰のベルトにコインを差し込んで叫ぶ。
「アリアンロード十五将、第二将『エントロピーヤン』」
五右衛門マゲの全高五メートルほどの、相撲取り型ロボットが現れ。華奈が五右衛門マゲの相撲取りロボットの背中に飛び乗る。
「あ、絶景かな、絶景かな、行けえぇぇ、爆乳を蹴散らせ! ドスコイ! ドスコイ!」
相撲取りロボットが、張り手で突進する。
吹っ飛ばされる爆乳姉妹。
長女の爆乳パワーの胸から、肌色をした肉まんのような物体が飛び出して道に落ちた。
それを見た姉妹の一人が驚きの声で言った。
「お姉ちゃんの胸……詰め物だったの、爆乳一族なのに……その胸は?」
胸を手で押さえて、走り去る長女。それを追う姉妹。
「いやぁぁぁ! 見ないでえぇ!」
「待って、お姉ちゃん」
走り去っていく爆乳戦隊を唖然と眺める、逆転バット。
「あのぅ、ちょっと。変態の痴女はまだ残っているバァット……はっ!?」
背後からの怒りの波動、振り返った逆転バットは怒りの笑みを浮かべながら、ベルトにコインを差し込もうとしている華奈の姿を見た。
「覚悟はできているでしょうね、くたれ神『
くたれ神に変身した華奈の、太モモラリアートが逆転バットに炸裂して、吹っ飛ばされた逆転バットの体から怪人スーツが空中離脱する。
「うぎゃあぁ! バットォォエンドゥ」
ゴミ箱に頭から突っ込んだ、白衣コート姿の逆転バットはそのまま、意識を失った。
勝利宣言をする、阪名華奈。
「正義は勝つ! 裸じゃないんです、こういう模様なんです」
足を少し開いて立つ華奈の股間に、風で飛んできた紙が貼りついて、一般人の視界から華奈の股間を隠した。
【裸体等身ヒロイン・サカナカナ】VS【爆乳戦隊オ・姉妹ジャー】~おわり~
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます