第5話 弟子の成長
ソフィアの強化された火炎魔法が、ジャイアントモンキーの顔面に命中した。
最初に模擬戦をしたときとは比べものにならないほどの火力だ。顔まで溶かしてしまったのである。
そして二体目のジャイアントモンキーは、持っていた剣であっという間に真っ二つにした。
「す……すごい! まさか私だけで倒せてしまうなんて……」
依頼書にはジャイアントモンキーを一体討伐のはずだったのだが、二体もいたのだ。
だが、俺が参戦する前にソフィアが難なく倒してしまったのである。
「俺の出番は全くなかったな」
「これも師匠が作ったエリクサーの賜物です」
「買い被りすぎだ。ソフィア自身の能力にもっと自信をもて」
今回の討伐は、今までのソフィアにとっては本来倒すことなどできない相手だっただろう。
だが、そんな相手を二体も倒したおかげで彼女のステータスが更に上がったはずだ。
エリクサーを飲んだ状態で挑めば、次回はジャイアントモンキー程度なら一人でも倒せるだろう。
俺にとって初めての弟子ができ、ソフィアは毎日コツコツと着実に力をつけていった。
♢
「師匠、やりました! ジャイアントモンキーを四体討伐してきましたよ!
「お疲れさま。ソフィアの成長っぷりには驚くばかりだ」
「毎日訓練させていただいたからですよ。師匠の教え方が上手なんです」
ソフィアは剣術をやっていたと言っていたが、独学で学んでいたそうだ。
動きに勿体ない部分が多かったから、少しアドバイスをしたのだが、飲み込みがとにかく早い。
凄い人材を弟子にしたのかもしれないと、最近思う。
「ところで渡した収納ボックスにしっかりと素材を入れてきたか?」
「はい! ここだと迷惑になってしまうので、一旦ギルドの外で出しますね」
物を収納できる魔道具を錬金術で作っておいた。
これを持っていれば、倒したモンスターを持って帰るのに便利なのだ。
訓練場として使っている裏庭へ行き、ジャイアントモンキーを出してもらったのだが……。
「ソフィア……これでは報酬が半減してしまうぞ。しっかりと素材になる部位を剥ぎ取った状態で提出した方が良い」
「すみません! 戦闘は慣れてきましたが、そっちはてんでダメでして……」
申し訳なさそうに言ってくるが無理もない。
俺だって剥ぎ取り作業は嫌いな部類だ。
だが……。
「一流冒険者になるためには、ただ強ければいいってもんじゃないんだ。モンスターの剥ぎ取りも大事な仕事なんだよ。最初は気持ち悪いと思うかもしれないが……やってみるか?」
「は、はい……。頑張ります!」
剥ぎ取り作業は、一流冒険者になるために誰もが経験する最も避けたい作業である。
冒険者はただ強ければいいってわけではない。
だからこそ、このような作業も私設ギルドでは教えることにしている。
彼女も最初は戸惑った表情をしていたが、しっかりと覚えようとしている意思があるようだ。
「最初は気分が悪くなるかもしれない。絶対に無理はするな」
「いえ、たとえ嘔吐してしまってもしっかりとやります!」
無理はしないで欲しい。
まだ伝えてはいないが、エリクサーを飲めば吐き気ならば回復できる。
だが、剥ぎ取り作業に関しては道具に頼らず自力でこなしてほしいのであえて口にしなかった。
本当に気分が悪くなってしまったときの切り札にしておく。
早速必要な道具を持ってきて作業を始めた。
「こっちの部位は食用になる。この切り方では傷がついてしまうからもう少し浅く……」
「え……と、こうですか?」
「……いきなり完璧だな」
基本は一度、多くても二度指摘しただけでソフィアは剥ぎ取り作業も上手くこなしていった。
これさえ一人でできるようになれば、今の彼女なら公営ギルドでもAランク冒険者にだってなれるだろう。
「ふう……ちょっと気持ち悪くなっちゃいましたが、全部終わりました」
エリクサーなしでもやり遂げたのだった。
剥ぎ取った骨や各パーツをしっかりと分けて綺麗に並べてくれている。
ちなみに識別しておくのは剥ぎ取りの基礎なんだが俺は教えていない。
「上出来だ。これならば公営ギルドの依頼も問題なくできるだろう」
「ありがとうございます! これも全て師匠のご教授のおかげです」
「俺は基本を教えただけなんだがな……」
弟子が成長してくれる姿をみれるのがこれほど喜ばしいものなのだと初めて知った。
俺もギルドマスターとして、成長する過程がまだまだ色々とありそうだ。
ソフィアとともに私設ギルドを通してこれからも互いに成長していきたい。
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