第六話 クリティカルガンマン・ルヴィン登場3

「すまなかった。特にちびの方。いや、ほんとに」

 ギルド内。

 木製の丸テーブルを三人で囲んでいる。

「で、なに? 私たちを襲ったのは勘違いだったってこと?」

「おそらく。まだ確定したわけじゃねぇが」

 先ほど襲い掛かってきた男性・ルヴィンさんは両足を組みながら机に掛け、火の点いていないタバコを咥えた。

 ヒイロお姉ちゃんはむすっと頬杖を付いて、ルヴィンさんを睨んでいる。

「じゃあ、もう私たちは狙わないってこと?」

「それはわからねぇよ。まだ、お前が標的ターゲットかもしれないからな」

「ねぇ、ルヴィンさん。どうしたら、ヒイロお姉ちゃんがシロだってわかるの」

「身体を見れば」

「へ?」

 ばん、と、お姉ちゃんが立ち上がった。

「今度は私のカラダがターゲットだっていうの!?」

 右手を左肩に、左手を右手に置いて、胸を腕で隠すようにする。

「うるせぇな。お前の身体なんか興味ねぇわ」

「お姉ちゃん。一回座って。ごめん、あとちょっとだけ口挟まないで」

 お姉ちゃんだと話にならないので、僕が進めることにする。


「ねぇ、ヒイロお姉ちゃんを誰だと思ったの? 誰かを追ってて、その人がお姉ちゃんの特徴とそっくりだったってことだよね」

「犯罪組織の幹部だよ」

「犯罪組織?」

「『白夜』って、知らねぇか」

「たしか、世界中に拠点を置いてるっていう大規模な組織だよね」

 見たこともないし、被害を受けたわけではないけれど、名前くらいは知ってる。

「俺は『白夜』を沈めるために対人狩人ハンターをやってるんだが、その女が組織の女幹部の特徴と全く同じなんだよ」

「特徴って?」

「袴と小袖をまとい、武器は太刀、長く艶やかな黒髪をした女」

「お姉ちゃんだよ、それ」

 ふたりでヒイロお姉ちゃんを見る。

「だけど、その女幹部はアタッカーだって聞くからな。ヒイロっつったか。そいつタンクなんだろ、あほみたいな格好して。だから勘違いかもしれねぇってことだ」

 ふーっと、息を吐く。

 煙もないのに。

「ふーん。それで、さっきのお姉ちゃんの身体を見たいって話は?」

「見たいとは言ってねぇよ。『白夜』の人間は身体のどこかに組織を表す刺青タトゥーがあるんだよ、拳くらいの大きさの」

 ぐっと拳を握る。

「なるほど。じゃあ、お姉ちゃんの身体にその刺青がなければ、シロってことがわかるんだね」

「ああ」

「あ、でも今朝……」

 ——つやつやした綺麗な白い肌……。

「……たぶんお姉ちゃんの身体にはないと思うよ。ね、ないよね?」

 お姉ちゃんがこくんと首を縦に振る。

「見たのか?」

「キャミソールで隠れていないところだけだけど……」

「はっ、胸とかケツとか足の裏にあるかもしれないだろ」

 ばん、とまた大きな音が立った。

「やっぱり、そんなこと言って、私のカラダが見たいだけなんじゃない! ダメだよ。私のカラダはランくんだけのモノなんだから」

 ……。


「……じゃ、じゃあさ、お姉ちゃん」

「ん? どうしたの?」

「……その、僕に見せてよ」

「え?」

「ヒイロお姉ちゃんの、……カラダ」

「え? ちょ、ランくん!?」

「……見せてくれないの? それとも、見せられないの? 刺青があるから……?」

 お姉ちゃんの小袖の重なっている左前の部分に手を掛ける。

「え? え、え? 待って! まだ私、ココロの準備が——」


「あー、うるせぇ。わかったよ。刺青はないってことにしてやるよ」

「ちょっと! せっかくのランくんとのいちゃいちゃに水差さないでよ!」

「何がだ。心の準備がー、とか言ってたくせによ」

「こいつ!」

「お姉ちゃん、座ってって!」

 ヒイロお姉ちゃんはむすっとしたまま、素直に着席する。

「ランくん、お家帰ったら続きしよっか」

「しないよ」

 ルヴィンさんに向き直る。


「じゃあ、ルヴィンさん。そういうことでたぶんお姉ちゃんは違うから、また別の袴姿の太刀を持った黒髪の女性を探してよ」

「そんなやつ他にいねぇと思うけど。わかったよ」

「うん。ごめんね。——あ」

 他……?

 お姉ちゃん以外の袴姿の太刀を持った女性……。

 ——憧れの人がこんな格好をしていたから、かな

 ——憧れの人?

 ——私のピンチを救ってくれたの。太刀でずばーんって

 もしかして……。

「あ? どうした?」

「……」

「どうしたの? ランくん?」

 ヒイロお姉ちゃんとルヴィンさんが顔を覗いてきた。

 ……。


「……ねぇ、ルヴィンさん」

「ん?」

「ルヴィンさんって、パーティーメンバーいるの?」

「俺はいねぇよ。ひとりでやってる」

「これからどうするの?」

「ぶらぶら狩人やってくだけだが……」

「……じゃあさ、ずっとじゃなくていい、助っ人みたいな感じでいいからさ、僕たちのパーティーに入らない?」

「は?」

「え!? なんで? ランくん。私とランくんの聖域サンクチュアリにこんなやつ必要ないよ」

 ぶんぶん、とお姉ちゃんに揺すぶられる。

 お姉ちゃんの手を解いて。

「いつもいっしょじゃなくていいんだ。助けてって言った時に来てくれるくらいでいい」

「なんで俺がお前らなんかと」

「僕だって人の役に立ちたくて狩人になったから、ルヴィンさんが『白夜』を倒すのなら手伝うよ。それに僕が習得したSSサポータースキルはお姉ちゃんとルヴィンさんがいて、一番輝けると思うんだ」

「お前に手伝ってもらう必要はねぇよ」

 この人とはこの先絶対に連絡できた方がいい。

 強気にいかないと。

「……ふーん。ルヴィンさんってさ」

「なんだよ」

「勝手にヒイロお姉ちゃんを悪い人だと勘違いして、勝手に襲い掛かってきて、勝手に僕に痛いことして、その挙句、僕たちに負けたよね」

「……」

「その僕たちの頼みを断れるの?」

「……」

 すると、ルヴィンさんは右手の人差し指と中指で咥えていたタバコを摘み、先端を僕の方へ差し出した。

「?」

「ほら」

「なに?」

「火だよ、火。お前はランっつったか。お前らには負けたが、ランには負けてねぇよ。俺の弾丸喰らって寝転んでただけだろ」

「じゃあ」

「ほんとにたまにだぞ、たまに。いつもいっしょにいるわけじゃねぇからな」



「そういえば、僕らと戦ってる時に身体がぴかぴか光ってたけど、ルヴィンさんのUSユニークスキルってなんだったの?」

「俺か。俺のUSは」


US〈クリティカルの発生率・クリティカル時の威力が上昇〉


 これは、強そう……。


【ルヴィンがパーティーに加わった】


——————————


ラン   US〈相手の攻撃スキルの命中率が少し減少〉

     SS〈?〉……?



ヒイロ  US〈相手と対峙した時、防御力がほんの少し上昇〉

     TS〈リフレクション〉……ジャストタイミングで使用することで、近接攻撃を無効にし、二倍の威力にして相手に返す。



ルヴィン US〈クリティカルの発生率・クリティカル時の威力が上昇〉

     AS〈クイック・ショット〉……三連射。クリティカルしやすい。

     AS〈ライナー〉……必中。クリティカルしやすい。

     AS〈インストゥル・バースト〉……近距離で発動するほど威力上昇。


——————————


「ごふっ、ごほっ……」

「ちょっと、こんなところで咳き込まないでよ。ランくんの肺に煙が入ったらどうするの」

「俺タバコ吸えないんだよ」

「じゃあ、吸わなきゃいいでしょ」

「タバコってかっこいいだろ」

「だから、火も点けずに咥えてるだけなんだ……」

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