答え合わせ

猫の目、どうでしたでしょうか。初めての意味怖話でしたが、楽しんで読んでいただけたなら幸いです。


いきなり答え合わせというのもなんなので、少しずつヒントを提示しながら、遠回りをして答えまでの道を辿りたいと思います。


まず初めに、猫について。

猫というのは古来より、魔を見る者と言われてきました。猫がふと立ち止まり、じっと何もない空間を見ている時、そこにはこの世ならざる存在がいるかもしれない、というのは有名な話ですね。今回の話では、主人公の飼い猫であるフユが物語の主軸になっています。

そのフユが見ていたという窓の外。雨降る薄暗い夜の中を、ただ一匹の猫が見つめていました。魔を見通す力を持つと言われる猫の目が、窓の外に見出した存在とは一体…!?


ここでまず、一つ目の大きなヒントを。

実は、フユはのです。


意味不明でしょう?

外はすでに深夜。つまり暗闇です。おまけに雨まで降っていて、視界の悪さについては説明するまでもありません。いくら悪き存在を見通す力だなんだと言っても、通常の視力は人に劣ります。そうです。窓の外に何かがいたとしても、フユにはそれを見ることは出来ないはずなのです。、室内はどうでしょう。おそらく、明るかったはずです。主人公が読書をしていたことからそれは分かります。小さな明かりでは手元の字がよく読めないため、おそらく室内全体を照らせるほどの大きなものを使用していた、と考えることができます。


さて、ここでみなさんに試していただきたいことがございます。外が暗くなるほどの深夜、明かりをつけて、窓を見てみてください。そうした場合、みなさんには何が見えるでしょうか。


外の風景、ではありません。外は真っ暗で、部屋は明るい。そんなこの物語と同じ条件で、皆さんが見るのは間違いなく、


姿なのです。


これは鏡反射と呼ばれる現象で、ガラスのように平らな物体が、光を一方に反射することで、鏡のように姿が映る、というものです。


しかし、そうすると困ったことになります。猫のフユが見ていたのは、窓の外ではなく、窓の内。つまり、彼女は窓に映る、自分達がいる部屋の内部のを見ていたのです。


一体彼女は何を観ていたのか。それを解き明かす鍵が、『地震』そして『ロッキングチェア』です。


先に考えていただきたいのが、『地震』についてです。

定期的にやってくるという地震。主人公によると、彼女がロッキングチェアに腰掛けている時のみ、起こるようです。しかし、地震速報は告げられず、近隣の人々も、どうやら揺れは感じていない様子。皆さんはもう気づいていらっしゃると思いますが、この揺れは、おそらく心霊的なものが起こした怪異でしょう。そうでないと怖い話でなくなってしまいますしね。


率直に言ってしまいますが、これは地震ではありません。


少し状況整理をしてみましょう。主人公は、半年前から一人暮らしを始めた、という記述がありました。おそらく、これは半年前に今の主人公宅に引っ越してきたということと同義だと考えられます。主人公が座っていた椅子ですが、揺れるたびに、ギィという音を鳴らしていました。ということは、だいぶ古いものなのではないでしょうか。おそらく引っ越し前から使っていたものでしょう。他にも、読んでいた本は読みすぎでボロボロだったり。主人公は、おそらくものを大事にする人だったと推測することができます。ここで引っかかるのが、揺れても落ちない壁掛け時計の存在です。彼女の性格からして、この家具も新品のものとは考えにくい。しかも、主人公が落ちないかと心配して視線を向けるくらいですから、余程年季の入ったものなのでしょうか。さて、そんな時計を、無理矢理釘などで貼り付けてしまうのは劣化の原因にもなります。物を大切にする主人公ならおそらく、フックのような突起を壁につけて、そこに時計をかけておいたのではないでしょうか。もちろん、そんな置き方では地震などの揺れがあればすぐに落ちてしまうでしょう。だからこそ主人公は、揺れがあった時真っ先に時計のことを気にかけたのです。


しかし、時計は微動だにしませんでした。


主人公は大したことない揺れ、と言っていますが、人が乗った椅子を揺らすことができるほどの揺れ、というのはあまり小さいものとは考えられません。ましてや、その揺れで壁にかけて置いた古時計が微動だにしないというのは、おかしいというよりも、あり得ないのです。


さて、ここで、一つの新しい可能性が浮上してきます。


主人公が感じていた揺れは、本当に地震だったのか?


主人公が、必ず揺り椅子に座ったタイミングで起こる、しかも揺れていると感じるほどの振動。しかし、ご近所さんには身に覚えがない、緊急地震速報にも反応はなし。一番、物理的に身近にあるはずの壁掛け時計すら、揺れもしない。


揺れていたのは、ではないのか。


そう考えれば、矛盾は生まれません。何を隠そう、地震など、端から起きてなどいなかったのですから。


しかし、そう考えると、一体なぜ、ロッキングチェアは揺れていたのか、いいえ、一体、


そういえば、窓をじっと見つめる猫がいました。彼女は、窓の外ではなく、窓に映る部屋の内側を見ていたのでしたね。


座椅子の真正面に位置する窓。そこからなら、きっと主人公の膝に座った自分の姿から、ロッキングチェアの後ろまで、全て見渡せたはずです。


フユはきっと、主人公の座っていた椅子の、そのさらに奥を見ていたのではないでしょうか。


自分達の後ろから椅子を揺らす、見覚えのない何者かを。



主人公もきっと、あの壁掛け時計を見たときに、運悪く勘づいてしまったのでしょう。





最初から、違和感の正体は、




すぐ後ろに…。



そして、彼女は目を閉じました。






彼女が無事朝を迎えられることを、祈る他ありません。

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