先輩の告白

学校に到着。

今日はなんだか歩きスマホの連中が多いな。マナーを守れ、マナーを。


「なんか事件でもありましたかね」

「そうだね、みんなスマホを覗いてる」


俺も気になってネットを見てみるが……特に速報はない。何なんだ? 気のせいか?


ちょっと気になるけど、たまたまかな。

校内へ入り、それぞれの教室へ。


「では先輩、俺は教室へ向かいます」

「うん、その前に……耳貸してくれる?」

「え、ええ」


俺は耳を傾けた。

先輩が顔を近づけてきた。すると俺の耳元でこう囁いた。


「昨日、愁くんに選んで貰った下着……つけてるよ」

「!?」


背を向ける先輩は、逃げるように走って行ってしまった。マジか……会心の一撃を食らった気分だ。


俺の選んだヤツ、つけてくれたんだ。……先輩、ありがとうございます。



* * *



教室に入ると、やはりスマホを覗く生徒が続出していた。……なんだ、新しいアプリゲームでも流行っているのか?


昨日今日でリリースされたゲームなんかあったかなぁ。俺のプレイしている『WizardウィザードOnlineオンライン』というわけでも……む?


席に着いた瞬間、見知った顔が現れた。同じクラスの男子で……名前は覚えていない。



「あ~…、江口?」

「小野だあああああ!! 一文字も合ってねーよ!!」


「そうだ、小野だ!」

「秋永お前、わざとじゃないだろうな!?」


「そんなわけないさ。ところで、なんでみんなスマホを弄っているんだ?」

「なんだ、知らないのか」

「なにを?」


聞き返すと小野はニヤリと笑った。気色悪いな。


「お前も知っているんじゃないか。『WizardウィザードOnlineオンライン』だよ」

「……WOがどうした?」

「WOを運営している『トワイライト』が正式に“リアルマネートレードRMT”を解禁したそうだ」


「なんだって!?」


リアルマネートレード……つまり、ゲームの通貨をリアルのお金と交換することだ。レアアイテムの売買もこれに含まれる。

海外では結構当たり前になってきていたが、日本は遅れていた。それがとうとう可能になるとは。


「今や“新時代”のはじまりとまで言われている。だってさ、ゲームで稼げちゃうんだぜ?」


「凄いな。でもさ、税金とか」

「そこまで稼げるプレイヤーの場合だな。そう中々いないだろ」

「それもそうだけど……そうか、ゲームでお金を稼げるようになったから、みんなWOをプレイしていたのか」


「今の所は雀の涙、おこづかいにもならないけどな」

「そうなのか?」

「海外もう展開済みだからな。ゲーム内通過一メガベルで百円だとさ」

「ひゃ、百円!? 嘘だろ……一メガベルってガチプレイしているヤツが半日で稼ぐ額だぞ。それがたったの百円……」


けど、レアアイテムを入手できれば何万、何百万とか稼げるようだ。へえ、夢があるな。なんて話していると時間となった。ホームルームがはじまる。



「――――」



授業中、俺はずっとゲームのことを考えていた。ゲームマネーがリアルマネーに換えられる。上手く立ち回れば先輩との同棲資金も稼げるのでは……? なんて、考えてしまった。


そんな上手くいくわけないか。

世の中、そんな甘くない。


……冒険者ギルドでバイトした方が早いかな。



そんなこんなで――昼。



教室を出ると、そこには蜜柑先輩が立っていた。少し複雑そうな顔をした。



「蜜柑先輩……!」

「愁くん、ちょっと話があるの」

「……は、はい」



物凄く気まずい。でも、俺もちゃんと言わないとな。

少し先の人気のない場所で俺は立ち止まった。


「昨日はごめん。あたしも悪かった」

「いえ、俺も悪かったんです。まさかバレンシアが蜜柑先輩だと思わなかったし、でもそれが逆に嬉しかったというか……だから、つい状況に甘えちゃったというか、流されてしまいました。許してください」


「あたしも悪ふざけが過ぎたよ。柚にあんな怒られるなんて思わなかった。人の彼氏を奪おうとするものじゃないね」

「蜜柑先輩……」


「二人はお似合いだと思う。……でも、諦められないんだよね」

「また怒られますよ」

「かもね。でも気持ちに嘘はつけないよ。あたし、愁くんが好きだよ」


「……ちょ! いきなり告白ですかっ!」


突然すぎて心の準備がまったく出来ていなかった。心臓がバクバク鳴ってヤバい。



「これからも隙あらば愁くんを狙うからね」

「懲りてないんですね」

「実は……ちっとも懲りてない。だってさ、恋愛は自由でしょ。人を好きになるのも自由。告白だって自由だよ」


「蜜柑先輩の気持ち、確かに。けれど俺は――」

「待った。それ以上は言わないで……せめて卒業前までは……この気持ちのままでいたいから」


止められて、俺はせめてものお詫びに口を噤む。

これくらいは許してくれ、先輩。


その後、俺は蜜柑先輩と離れた。

直ぐに先輩に電話を掛けた。



『もしもーし、愁くん。どこ~? 教室にいなかったよね』

「屋上で会いましょう」

『分かったー。待ってるね』



足早に屋上へ向かい、階段を駆け上がっていく。早く、先輩に会いたい。


ようやく屋上に到着。

扉を開けると、先輩が振り向いた。

神々しい髪が風になびく。



「お待たせしました、先輩」

「ま、待ってたよ、愁くん」


ゆっくり歩いて向かうと、先輩はスカートを摘まんだ。恥ずかしそうにすそを上げていく。ま、まさか……見せてくれるのか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る