距離感が近すぎて悶え死にそう

「蜜柑先輩……」

「しゅ、愁くん!?」


「バレンシアさんって、蜜柑先輩だったんですか?」

「う、うん。そっちこそオータムって愁くんだったの!?」

「そうですけど……」


お互いに顔を見合って変な汗を掻いた。

こんなことってあるの……?


まさかの出逢いを果たし、これからどうするべきか悩んだ。どうする……何をする。こうしてオフ会をしたからには何かをしなければ。


「おーい、愁くん」

「っ! 蜜柑先輩、顔近いっす」

「だって、ぼうっとしているんだもん。意外すぎた?」

「意外すぎですって……」


「これ、柚に見られたら大変かもね」


そう言われるとそうだった……!

蜜柑先輩と二人きりでいるところを見られたら、いろいろ誤解されそうだ。なんて言い訳していいやらな。


いや、だけど“ゲーム仲間”だったのだから仕方がない。

それが事実なのだから。

ちゃんと説明すれば、先輩も分かってくれるさ……多分。


「蜜柑先輩がきちんと説明してくれるなら、問題ないかと」

「ん~、そうだね。ちゃんと話せば大丈夫だと思う。それより、せっかく集合したんだし、遊ぼうよ」


蜜柑先輩は俺の腕に飛びついてきた。……うわ、良い匂い。というか、いきなり距離感が近いな。


「い、いいですけど……どこへ行きましょうか。ノープランなので」

「そうだったね。んー、じゃあ映画でも見に行く?」

「映画ですか。今、なにかやってましたっけ」

「ゾンビ、サメ映画、恋愛ものもやってるよ」


スマホでサクっと調べ上げる蜜柑先輩。手際がいいというか、さすがだな。


「蜜柑先輩って、なんでも見るタイプです?」

「うん、オールジャンルかな。エログロなんでも平気」


全部いけるのか、それはそれで驚きというか度胸あるな。結構いろんな作品に触れているっぽいな。なら、どれを選んでも不満はないかな。


「じゃ、じゃあ……ゾンビ映画にでもしましょうか」

「ユーマ・オブ・ザ・デッドね。世界の未確認生物がゾンビとして襲い掛かってくるらしいよ。チュパカブラとか」


「マジっすか。それ結構そそられますね」


面白そうなので、それに決定。

俺と蜜柑先輩は『ユーカリが丘駅』付近にある映画館へバスで向かった。


バスの移動中、妙な視線を感じたが……蜜柑先輩との距離感が予想以上に近くて、気にしている余裕はなかった。



「ねえ、愁くん。こんな風に腕を掴まれてデートは初めて?」

「そ、そんなことないですよ。柚先輩だって優しく包んでくれますから」

「ふぅん。じゃ、あたしも今は“恋人のふり”をしていいよね」


「――え」


油断していると蜜柑先輩が胸を押し当ててきた。俺の手をわざとらしく、そのムチムチのふとももに挟ませた。……な、なんて感触。柔らかいとかそういう次元ではない。


そうか、ここに天国はあったんだ。

実在したんだ。


俺、死ぬなら蜜柑先輩の膝の上がいいかもしれない。


「どう、かな……」

「どうかなってバス内で大胆すぎます」

「へえ、愁くんって照れ屋なんだね」

「そういう蜜柑先輩だって顔が赤いですよ」

「だって男の子とデートとか初めてだもん」

「うそ、蜜柑先輩ってギャルでモテそうじゃないですか」

「ずっと水泳部の日々で忙しかったからね。でも、今はこうして遊んでいる方が楽しい。……柚のこと言えなくなりそう」


自然と見つめ合う形となり、唇が接近しているようにも思えた。……やばい、雰囲気流されそう。そう思った直後。



『――んんッ、ゲフンゲフン!!』



大きな咳払いが響き渡った。

まるで天からの警告のようだった。


……嫌な予感がする。


このまま勢いでキスしようものなら、神罰を受ける気がしてきたぞ。キスは絶対に回避した方が良さそうだな。


俺は顔を離した。



* * *



その後、駅へ到着。

そのまま徒歩で映画館へ。


……うーん、視線とか気配を微かに感じるような。気のせいだろうけど。



「どうしたの、愁くん」

「いえ、なんでもないです」

「もー、さっきからキョロキョロして……あたしの方だけ見て。ね?」


俺が挙動不審だったせいか、蜜柑先輩は目の前に立って視線で抗議してきた。身長差があるせいか、蜜柑先輩は見上げる形になっていた。……なんか小さくて可愛いな、この人。


「もちろんです。今は蜜柑先輩とデートですからね」

「うんうん。上映中、いつでもキスしていいよ」


「……っ!」


聞かなかったことにして、映画館へ。

それほど客はおらず、チケットは直ぐに買えた。



ユーマ・オブ・ザ・デッドの上映まであと十分。飲み物とかポップコーンも買っていくかな。

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