知ってしまった秘密(※柚先輩視点)
※柚先輩視点
違和感を感じたのは、愁くんが『所属ギルド』のことを教えてくれた時だった。そのギルドの名は『クレメンタイン』だった。
その名称は、学校でもよく
クレメンタインという小さくて可愛いミカンがあるって。その名を飼い犬につけているとも言っていた。
そんなまさか……と思った。
蜜柑もWOをプレイしているし、わたしにも勧めてきたことがある。でも、だからって……愁くんと同じギルドなんてことあるの?
チュートリアルの前に五つのサーバー選択がある。
①
②
③
④
⑤
わたしと愁くんは③のサーバーでプレイしているから……。蜜柑と一緒になるなんて、そうあるとは思えない。
いや、そんなことはない。
ただの偶然だと思っていた。
けれど、愁くんの
「先輩、俺のギルド『クレメンタイン』が気になるんですか」
「どんな人たちがいるのかなぁって」
「このギルドは総勢七名と小規模でありながら、中堅ギルドなんです。ギルドメンバーとは全員仲がよくて……まあ、会ったことはないんですが、友達のいない俺にはありがたい存在です。悩みとか聞いてくれますし」
「このゲーム、ボイスチャットも出来るんだよね。そういうのはしないの?」
「ギルドマスターから誘われていますが……そこまでは勇気がでなくて、チャットオンリーです」
「そうなんだ」
「……あ、先輩。今ギルドマスターがログインしてきました。ちょっと挨拶しますね」
その時、わたしは愁くんの操作する画面を見ていた。流れているメッセージにはこう書かれていた。
【バレンシアさんがログインしました】
……え。
バレンシア?
ウソでしょ……。でも『クレメンタイン』といい……『バレンシア』まで?
バレンシアは、蜜柑の飼っている愛猫の名前と一致していた。クレメンタインも柴犬の名前だ。
まさか……
まさか……『蜜柑』なの!?
* * *
――その夜、わたしは家に帰ってから愁くんや蜜柑のことが気になって仕方がなかった。
帰宅後、部屋でスマホを眺めていた。
蜜柑からのラインを待っていた。
蜜柑:どうしたの?
柚:その、WOについて聞きたいかなって
蜜柑:やっとやる気になった?
柚:ちょっとね。興味が沸いたの
蜜柑:あ~、彼氏の影響かな
柚:か、彼氏って……うぅ
蜜柑:ごめんごめん。今、イベントもやってるし、やるなら丁度いいかもね。でも今日は早く寝ないとだからさ
柚:え、今日は無理?
蜜柑:明日、大切な約束があってさ
柚:そうなの?
蜜柑:ギルドメンバーとオフ会するんだ
……そのメッセージを見て、わたしは指も表情も固まった。凍り付いてさえいた。……え、まって……これって……うそ。
柚:そうなんだね。どんな人だったか教えてね
蜜柑:オッケー。じゃあ、寝るね。おやすみ~
おやすみのスタンプを送り合い、わたしはベッドへ寝転ぶ。
こ、これって相手は愁くんでは……!
愁くんの方は気づいていないみたいだけど、わたしは双方が運命的な
……なにこれ、こんなことってあるの!
気づきたくもなかったけど、でも……知ってしまった。だから今は、愁くんにメッセージを送る勇気も出なかった。
振られるかもと思うと……怖い。
今、愁くんを失ったら、わたしは絶対に泣く。わんわん泣いてしばらくは立ち直れない。
って、あれ……わたしってこんなに愁くんが好きになっていたんだ。気づかなかったな。
……胸が、苦しい。
そうだ。愁くんと取られるわけにはいかない。だって、恋人のふりを始めたのは、わたしと愁くんなのだから。
偽物の関係だけど、その
明日は……愁くんを尾行する。
本当はこんなことしたくはない。
でも。
* * *
――翌朝、わたしは早起きして変装をした。コスプレ用でウィッグとかは沢山あるから、髪色を茶髪にして大人の女性をイメージした服装に着替えた。
……これでヨシ。
家を出て『冒険者ギルド』へ先回り。
愁くんに見つからないよう、こっそり玄関付近で待ち伏せた。
しばらく待っても現れない。
……遅いなぁ、愁くん。
――結局、十時前になって愁くんは現れた。こ、こんな遅かったのね。足が痺れちゃった。
ようやく出てきた愁くんの背中を追う。
バレないよう距離を保って。
どこへ向かうんだろう……。
尾行をしていくと『佐倉駅』が見えてきた。
集合は駅だったんだ。
愁くんは駅前で立ち尽くし、誰かを待っていた。おそらく蜜柑。でも、今の愁くんは蜜柑が来るとは思っていないようだった。
スマホを確認したり、周囲をキョロキョロ見渡していた。……もう、昨夜はわたしに連絡もしないで何やってるの。
――って、誰かきた。
あのやたら可愛い服装のギャルは……あぁっ!
やっぱり『蜜柑』じゃん……!
愁くんと蜜柑もお互いの顔を確認し、
って、そういう問題じゃない!!
蜜柑ってば、わたしの愁くんを取る気ー!?
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