二人きりでゲームしたら楽しすぎた

一時は騒然となったが、冒険者ギルドに平和が戻った。客入りは相変わらず絶好調で、俺と先輩は接客にいそしんだ。慣れれば接客も楽しいものだな。



――気づけば十七時を迎えていた。



「もう二人とも上がっていいよー」


九十九さんから後は任せてと、太陽のようにまぶしい笑顔とサムズアップを戴いた。



「「お先に失礼します」」

「うい、お疲れー!」



カフェを離れ、先輩は更衣室へ。


「わたしは着替えてくるね。あとで愁くんの部屋へ行くよ」

「分かりました、先輩。俺は自分の部屋で着替えるので」

「うん、またね」


手を振って別れた。

俺はそのまま部屋へ向かい、普段着へさくっと着替えた。


先輩を待っている間、スマホをチェック。もちろん、連絡なんてない。しかし“通知”はあった。これは『WizardウィザードOnlineオンライン』のお知らせだ。



【運営よりお知らせ】

~本日18時よりイベントを開始します~


[対象:全サーバー]


1.獲得経験値二倍

2.アイテムドロップ率二倍

3.期間中デスペナルティが発生しません

4.破滅級クエスト『ワルプルギスの夜』開催(レベル制限あり)

5.各ダンジョンにギルド職員を派遣します



こ、これは特大イベントじゃないか。しかも、あと一時間で開催か。こうなると俺はひきこもってでも廃人プレイをするのだが……。


いや、先輩を放置するわけにはいかない。俺は衝動を抑え込んだ。……はずだった。



イベントが……先輩が……イベントが先輩が……ああああぁぁ……!!



頭を抱えていると扉が開いた。

さすがにシスター服ではなかったけど、私服が大人っぽくて可愛い。これはシースルーブラウスってヤツかな。若干スケスケで鎖骨とか腕の肌が見えているような。エロ……じゃなくて、超可愛い。



「お待たせ~…って、愁くんどうしたの!?」

「あ、あぁ……これはその、ゲームが」

「ゲーム? なんのゲーム?」

「あれ、先輩に話していませんでしたっけ。今話題のウィザードオンラインですよ。通称・WOです」


「それ、蜜柑がプレイしてるゲームだね」

「知っていたんですね」

「少し前にやらない~? って誘われた」


「そうだったんですね。先輩はプレイしていないんです?」

「蜜柑に教えてもらって、チュートリアルを完了させて、それからログインしてないんだ」


「え、それは意外ですね! 一緒に遊びましょうよ」

「いいけど……わたし、格闘ゲーム以外は下手だから……」

「あー、そういえば前にゲーセンでバトルしたギルティは、めちゃくちゃ強かったですもんね」


「RPGとかダメダメなんだよね」

「大丈夫です。俺が丁寧にレクチャーしますから」

「それならやってみてもいいかな。うん、愁くんと同じゲームで遊んでみたいし、やってみよ」


先輩は乗り気になってくれた。

ベッドに座り、俺の隣に。

良い香りがして……俺は頭がぼうっとした。


よく考えたら、こんな可愛い先輩とMMORPGを一緒にプレイできる!? 最高かよ。絶対に楽しいじゃないか。


「では、少しだけ遊びましょう」

「いろいろ教えてね」


肩と肩が触れ合う距離で先輩は微笑む。

……嬉しくて泣きそう。



俺は『WizardウィザードOnlineオンライン』の基礎を先輩に叩き込んだ。チュートリアルは終わっていたから、基本操作は覚えているようだし、あとはレベリングのやり方、ステータスの振り方、魔法スキルの習得方法だったりを教えた。



「先輩は現在、ビギナーの『見習い魔法使い』ですから、基本的に火、水、風、地の魔法しか使えません。あと杖がないとダメです。モンスターを倒してゲットするか――“ベル”を稼いでください」


「ベル?」

「このWOの貨幣ですね。1ベル1円と思ってください」

「へ、へぇ……」


目をぐるぐる回す先輩。

あ、これ分かってないな!?

RPGが苦手とは言っていたけど、これは大変なことになりそうだ。けど、俺は先輩とゲームがしたい! 特大イベントもあるし。


初心者が始めるなら丁度いいタイミング。高レベルを目指すなら、今が最適だな。



「とりあえず、はじまりの街から移動しましょうか。草原フィールドへ向かい、スライムを倒すんです」

「い、移動って……」

「えぇ……さっき説明しましたよね。画面の左下に触れると仮想スティックが現れるんです。それでアバターを動かせるんですよ」


「うぅ……」

「移動だけで泣きそうにならないで下さいよ、先輩。格ゲーはあんな世界レベルだったのに」


「分かんないんだもん。……優しく教えて?」

「は、はい……」


となると、これしか方法はない。

今の俺と先輩の関係なら……問題ないはずだ。


嫌われないと信じて、俺は先輩の体に腕を回した。


ぴくっと反応を示す先輩は、刹那で顔を赤く染め上げていた。もう物理的に教えるしかないから仕方ないのだ。


先輩の手に重ね合わせていく。

……先輩、指細すぎ。



「……愁くん、これだとドキドキしすぎて覚えられない。頭真っ白になっちゃう」

「基本操作を覚えてもらう為です。我慢してください」

「でも、でも、でも、でも、でもぉ…………」


「ああッ! 先輩、そっちの指は動かしちゃいけません!! それはダッシュで――ああああああああ!!」



『ぴゅ~ん』と井戸へ落ちていく先輩のアバター。このゲーム、無駄にリアルに作られており……穴とかに落ちると即死。死ぬ。



[WASTED:10%の経験値EXPを喪失しました]

[セーブポイントへ帰還します]



燃え尽きた先輩の小さな頭が俺の方へ倒れてきた。……ゲームはつまずいているけど、ダメダメな先輩が可愛くて、愛おしくて、めちゃくちゃ楽しいっ。

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