先輩から胸の谷間の写真が送られてきた

頭がぼうっとする。

先輩からキスとか反則チートだ。完全な不意打ちを食らった。

さっきの分はカウントされちゃうのかな、なんて変に心配してしまうが、それでも後六回分もあるじゃないか。贅沢すぎるし、十分すぎる。



あれから数分。



自然と離れ、再び家に向かって歩き出す。

けれど、会話はなかった。


気まずいというより――恥ずかしいという思いが勝った。


それは先輩も同じようで、ずっとうつむいたままだ。……耳まで赤い。



結局、会話もなく“先輩の家”の前に到着。

このまま別れるわけにはいかないよな。



「……その、今日は事件まで起きちゃって大変でしたけど、先輩と居られて良かったです」

「わたしも同じ気持ち。もっと一緒にいたいな」



名残惜しそうな視線を向けてくる先輩。そんな風に見つめられると、キスの権利を使いたくなる。だが、ここは衝動を抑えた。



「では、俺は家に帰ります」

「またラインするね」

「俺も直ぐ返信をします」

「絶対だからね。約束だよ」



約束を交わし、俺は背を向けた。

今夜は先輩とラインでいっぱい話せそうだな。約束された勝利に感激していると、先輩の家の方が騒がしくなっていた。



『――柚、刺されたと聞いたが!』



なんだ、先輩の父親か。

慌しく先輩に駆け寄り、体を確認していた――が。先輩は『お父さん、スカートの中まで覗こうとしないで!!』とめちゃくちゃキレられていた。


なにやってんだ、あの父親ー!!


ちょっと心配になって立ち止まっていると、俺の存在がバレた。鬼の形相で向かってくる父親は俺の目の前で叫ぶ。



「お、お前は秋永なんとか!!」

「秋永 愁です」

「そんなことはどうでもいい! 娘に何をした!!」


「なにもしていませんよ。刺されたのは俺です」


みたいに包帯グルグル巻きにされている右手を見せると、父親は青ざめた。


そんな中、先輩も駆け寄ってくれた。



「お父さん! 愁くんはわたしを守ってくれたの。ナイフで襲われたんだよ……だから、こんな傷を負ったの」


「……娘を守ってくれたのかね」



信じられんと父親は混乱する。

だが、これは紛れもない事実だ。



「そういうことです。嘘だと思うのなら、学校に確認してもらってもいいですよ」

「むむ……いや、柚の言葉を信じよう。疑って悪かったな」

「いえ、それでは俺は帰るので」


「秋永……くん」

「なんです、先輩のお父さん」


「娘を助けてくれて……ありがとう」

「!?」



まさかお礼を言われるとはな……これは驚いた。もしかして、単に過保護というか親馬鹿なのかもしれないな。



先輩のお父さんは、借りてきた猫みたいにすっかり大人しくなった。


今度こそ先輩の家を後にし、俺は自宅へ戻った。



* * *



「ただいま~」

「愁!! 学校でなにがあった! 電話も殺到するし、警察の人も来るし、お客様もどっさり来店されるし……もう意味が分からない」


親父は頭を抱えていた。

あー…、これは俺のせいか。

でも説明が面倒だなー。


「かくかくしかじか」

「なんだってえ!?」


今ので分かったのかよ!!

……まあいいか、長々と説明する手間が省けた。



「そういうわけで右手を負傷した」

「無茶しすぎた、愁。だが、彼女を守ったのだな」

「先輩を守る為なら右手だろうが左腕だろうが失くしても構わないさ」


「男らしいな。だが、一歩間違えれば命を落としかねない。少しは反省するように」

「迷惑を掛けた。その分、冒険者ギルドにこうけんしたい」

「ほう? どういう風の吹き回しだ」


「バイトさせてくれないか、親父」

「彼女のためか?」


もちろん、その為だ。だけど、俺はあえて親父には語らなかった。


「……」

「お前は分かりやすいな、愁。まあいいだろう。お前がこれほど毎日を生き生きと過ごす様は久しぶりに見た。最近の愁は……なんというか、せみの抜け殻だったからな」


そう。俺は先輩と出会う前は無気力だった。毎日が退屈で、なにもなかった白黒の世界を生きていた。でも、屋上で先輩と出会い……俺の色はフルカラーになった。


色がつくだけで、世界はこんなにも変化するんだな。知らなかったよ。



「じゃあ、バイトしてもいいのか?」

「よかろう」


「親父、ありがとう!!」

「ただし!!」


「え」


「先輩ちゃんもこの『異世界ギルド』で働いてもらう。それが条件だ」



なんの提案かと思えば、それはもう“確定した未来”でしかなかった。



「親父、先輩はバイトする気満々だぞ」

「なぬぅ!? それは本当か」

「ああ、バイトしたいってさ。今後の為に」


同棲のことはまだ伏せておいた。言えば、ビックリするだろうしな。



「それは都合がいい。最近、お客様が増えたからな。うむ、決まりだ」

「じゃ、親父。これからよろしく」



俺は自分の部屋へ戻っていく。

ちょうどスマホにメッセージが着て、俺はそれを開いた。なにか写真もえられているな。



柚:見てみて~。レモンのお風呂ー!



写真は、先輩の美しい顔と胸の谷間だった。

それとお湯に浮かぶレモン。なんだかインスタ映えしそうな写真だが、先輩はどうやら、浴槽に浸かっているようだな。


ドアップで白い肌がまぶしい……肌艶すげぇ。

こうして見ると瞳がパッチリしていて、睫毛まつげも長くて可愛いなぁ。


ふぅむ、先輩ってこんなに胸が大きいのか――じゃなくて、エロすぎだろ!



愁:こ、これは過激ですよ(汗)

柚:あれ……愁くんに送ってた!?


愁:え、これ俺に送ってくれたんじゃないんです?


柚:ち、違うよー! 蜜柑に送ろうと思って……あぁぁっ!



以降、先輩からメッセージはなかった。


間違いかよ!!

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