ビッグバン

香久山 ゆみ

ビッグバン

「怪奇現象を目の当りにしたんだよ」

 興奮する僕の話を、幼馴染のハルがブラックを飲みながら黙って聞いている。

「角倉クンのアパートに幽霊が出るなんて言うから遊びに行ったんだけどね――。

 手土産に持ってきた焼芋を温めるため電子レンジを借りたんだけど、古いアパートのせいか昼間なのに台所はじとっと薄暗いんだよね。で、角倉クンがホットミルクも飲みたいなんて面倒言うから、牛乳も一緒に電子レンジに入れてスイッチだけ押してさっさと台所を出たんだ。二分で鳴るから角倉クン自分で取りに行ってよって。

 僕と入替わりで角倉クンが台所に入った瞬間に、ボンッと音がした。驚いて覗きにいくと、青白い鬼火のようなものが一瞬見えた。角倉クンはゆらりとこちらを振返ると一言、もう帰れ、と。けど、去り際にはっきりと見てしまったんだ。電子レンジの窓には、有り得ないくらい粉々にヒビが入っていた――」

 ここまで話し終え一息つく。ハルは土産に渡した焼芋のホイルを両手で握りしめたまま固まってしまっている。

「ね、やばいだろ。ポルターガイスト現象だよ。あの超人角倉クンが顔面蒼白だったんだから」

「……やばいのはきみだよ」

「ほへ?」

「だから角倉くんに追い返されるんだよ。アルミホイルのまま焼芋をレンジに入れたでしょ。厳禁だよ。マイクロ波がホイル表面の電子に反射して火花が出たりするから」

「へぇ~」

「はぁ。ほんときみって放っとけないよね。一人暮らしとか無理そう」

「けど、ハルがいてくれるから大丈夫だろ」

「……ばーか」

 溜息とともにハルがコーヒーにミルクを垂らす。ゆっくりと漆黒の中に乳白色が広がっていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ビッグバン 香久山 ゆみ @kaguyamayumi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説