HP五兆は今も


「これでよし……。ピヨリも準備出来たか?」


「うん! いつでもいいよ、タクト!」


 どこまでも広がる青空の下。

 旅の準備を終えた俺とピヨリは、村はずれから真っ直ぐに続く道の始まりに立っていた。


 大魔王との戦いから一ヶ月。

 世界は平和になって、モンスターは消えた。


 結局、俺は死ななかった。

 

 あの最後の時。

 俺のHPがゼロになる瞬間にピヨリがかけてくれた、HPを1だけ回復する魔法……。それが、俺の命を本当のギリギリで助けてくれたんだ。


「大魔王の呪いも解けて、みんなのHPも元に戻ったからな。ピヨリみたいなヒーラーも、これからまた大忙しになるんじゃないか?」


「そうかも。でも、もう戦いは終わったんだよね? なら、これからはなるべくタクトと一緒にいたいかな……」


「そっか……。ありがとな、ピヨリ……」


 そうなんだ。


 大魔王が倒されたことで、この世界にかかっていたHP1の呪いも消えた。

 みんなのHPは元通りになって、もう転んだり、蜂に刺されたくらいで死んだりすることはなくなった。


 そして――。


「でもさ、タクトは平気なの? タクトももうHP五兆じゃないんだよね?」


「はははっ。むしろそれで良かったよ。大魔王に奪われてたHPを、ちゃんとみんなに返せたんだ。本当に良かった……!」


 そして、俺もHP五兆じゃなくなった。


 あの後で色々調べてくれたハルートが言うには、この世界で俺だけがHP五兆だったのは、世界中から奪われた〝みんなのHPが俺に集まってたから〟らしい。


 どうしてそんなことになったのかは分からないが、大魔王の呪いも完璧じゃなかったって事なんだろう。


 だから今の俺のステータスも――。


 ステータス

 名前:タクト・トリリオン

 職業:戦士

 レベル:82

 HP:729

 MP:0

 攻撃:736

 防御:821

 魔力:0


 うん……。

 これでいい。


 きっとこれが普通なんだ。

 本当に、こうなれて良かった……。


「そろそろ行こう! 先に行ったディライズとハルートが待ってるしな!」

 

「えへへ……。二人共、私達の結婚式の準備をしてくれてるんだもんねっ! 行こう、タクトっ!」


 そう言って、俺達は互いの手をしっかり握って歩き出す。


 俺の名はタクト・トリリオン。

 少し前まで、HP五兆の男と呼ばれていた。


 そして……今はもうHP五兆の男じゃなくなった。


 だけど……少し前まで俺の中にあったHP五兆は、今も確かに〝ここ〟にある。

 この世界に生きるみんなの命の中に、今も――。







 ☆☆☆☆☆


 本作を最後までご覧頂きまして本当にありがとうございます!


 日々の執筆の励みになりますので、少しでも楽しんで頂けましたらぜひ気軽に☆やフォロー、応援コメントなどなんでも頂けると泣いて喜びます!

 

 ぜひまた遊びに来て下さい!

 これからも頑張ります!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

庇えなければ即死亡!俺以外全員HP1の世界で、俺だけHP五兆あるので頑張って盾やります! ここのえ九護 @Lueur

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ