第43話 海よりも深い愛を探して エピローグ

「お前のことを、切り刻んで、こねくり回して、つくねにしてくれるー」

「きゃー、助けてー」


 一人の女性が怪人に襲われている。


「「「「ちょっと待ったー」」」」


 そこへどこからともなく声が飛んできた。


「な、なんだなんだ」


 うろたえる怪人を尻目に、声の主が姿を現す。


「赤いパプリカあまーいぞ。ミネラルレッド、ここに参上」


 赤いパプリカの姿をしたレッドが現れる。


「ブルーベリーは目に良いんだよ、ミネラルブルー、見斬首」


 ブドウの房みたいなブルーが現れる。


「黄色いパプリカ世界一、ミネラルイエロー、推参」


 黄色いパプリカの姿をしたイエローが現れた。


「グリーンピース食べて元気になろう、ミネラルグリーン、ここに現る」


 大きなグリーンピースというか、ゴツゴツした塊のグリーンが現れる。


「桜のように舞い、桃のように甘い、真夏の日差しが照りつける中、二人の愛は加速する。星の王子と魅惑のプリンセス。私は世界のあ・い・み。ミネラルピンク、顕現する」


 襲われてた女性が、ピンクのパワードスーツを着た状態で出てきた。


「「「「「五人揃って、ウオーター(ボ)」」」」」

「な、なにぃー」


 怪人が盛大に驚いた。が、


「って、・・・・・・いや、もう突っ込まんぞ」


 五人は顔を見合わせる。


「じゃ、じゃあ、戦うぞ」


 レッドが遠慮気味に申し出る。


「ああ、来るなら来い」


 怪人は威風堂々と構える。

 五人は顔を見合わせながら、誰が先に行くかを決めかねていた。


「やー」


 と、後ろにいたグリーンから手を挙げる。しかし、思いっきり蹴りを食らって後ろに吹っ飛んだ。


「はーっと」


 今度はブルーだ。上手く背後を取れている。と思いきや、強烈なビンタが飛んできた。吹っ飛びこそしなかったが、あまりことに二、三歩下がり茫然自失になる。


「「とうっ」」


 次はパプリカ兄妹による挟み撃ち攻撃だ。しかし、これは避けられて、二人が衝突して倒れてしまった。


「た、助けてー」


 最後は一番身軽なピンクだが、みんなの様子を見るなり助けを呼び出した。怪人はゆらりと近付いて頭をはたく。


「おのれ、助けに来たんじゃないのか、ああー突っ込んでもうたわ」


 怪人は悔しそうに頭を抱えた。


「つ、強いなお前」


 レッドが体勢を立て直して言う。


「俺が強いんじゃない。お前らが弱いんだ」


 怪人が呆れながら解説する。


「な、何だ桃源郷」


 ブルーが目を覚ました。


「私達は正義の味方よ」


 イエローが抗議する。


「弱いわけ無いじゃない」


 グリーンも起き上がって抗議する。


「弱いんだよ、その格好が」


 五人は顔を見合わせる。


「どういうこと」


 ピンクが聞いた。


「いや、戦える格好かお前ら」


 怪人が姿に突っ込む。もう一度顔を見合わせる五人。


「これには深いわけが」


 レッドが言う。


「言うてみぃ」


 怪人が聞く。


「ことの始まりは、子どもたちの野菜嫌いだっタンバリン」


 ブルーが話し始める。


「野菜嫌いを克服して欲しくて、私達は考えた」


 イエローが続ける。


「強くて格好いい私達が野菜になれば、子ども達も野菜を食べるようになるんじゃないかって」


 グリーンが締めくくった。


「なるほどな。気持ちはわかる。わかるけど、勝たな意味ないやん」


 怪人が共感しながら突っ込む。


「それは、そうだ」


 レッドが納得する。


「それにやるならピンクも何とかせい」


 怪人が強めの口調で突っ込んだ。


「き、着替える時間がなかったのよ。ほら、私出てるから」


 ピンクが言い訳する。


「知るかんなこと。やるなら初志貫徹だろうが」


 切れのよい突っ込みが入る。


「じゃあ次は、動きやすい格好してくれば良いんだな」


 レッドが言う。


「勝てる格好で来いや」


 怪人が応える。


「それまでは誰も襲っちゃいけないゾーンディフェンス」


 ブルーが言う。


「お前はいい加減語尾直せ」


 怪人が突っ込む。


「首を洗って待ってなさい」


 イエローが言った。


「その台詞、そっくりそのまま返したる」


 怪人は応える。


「必ず倒してみせるわ」


 と、グリーン。


「俺まだ何も悪いことしてないけどな」


 怪人がそう主張する。


「ともかく、私をヒロインにしなさい」


 ピンクはいつも通りだ。


「お前、そればっかな」


 怪人も呆れている。


 かくして全員がはけてショーが終わった。




「あはは、やっぱりミネラル戦隊面白いや」


 美佐雄が言った。


「うん、面白い」


 そう応えるのは美樹だ。


「やっぱ、達彦と愛海がいるミネラル戦隊が一番だな」


 昴である。


「達彦先輩には叶わないなー本当」


 順だ。彼も今日呼ばれている。今日は達彦と愛海の結婚式だ。


「でも、まさか二人がゴールインなんてなかなか感慨深いよね、僕らにとっては」


 美佐雄が言う。


「ああ、高校生の時にはまず想像出来なかったな」


 昴は愛海が達彦を冷たくあしらう姿を思い出しながらそう言った。


「私はあの二人お似合いだと思う」


 美樹がそう言う。と、美佐雄と昴はお互いに見合って笑い合った。


「まあ、くっついてみれば確かにそうだね」


 美佐雄がそう応える。


「あっ、そろそろ着替え終わったみたいですよ」


 順がそう言って、前を見る。すると、先ほどまでのふざけた格好はどこいったのか、きちっとした格好の達彦と愛海が出てきた。と、達彦が挨拶をする。


「ああーみなさん。本日はお集まり頂きまして誠にありがとうございます。先ほどのショーはいかがだったでしょう」


 達彦がそう聞くと、拍手で会場が応える。


「良かったです。先ほどのビンタは本気の一発でした。新郎なのに、今片顔が赤いです」


 そういうと、今度は会場が笑い声で応える。剛はと言うと、苦笑いをしている。


「ビンタと言えば、私も若い頃は愛海からたくさんビンタを受けてきました。私のギャグの語尾が嫌いだったのです、愛海は。どうしても語尾をつけてしまう僕は、障害者だと罵られたこともあります。しかし、それも今は克服し、自由に使いこなすことが出来ますマッスル」


 会場が笑いに包まれる。愛海はどこか恥ずかしそうだ。


「これは、今は亡き私の、愛海の叔父、仙人様の教えを頂いたからであります。ここに深く、ご冥福と感謝を送りたいと思います」


 そういう達彦に拍手が応える。


「またこうして結ばれることになったのは、ひとえに皆様とミネラル戦隊のお陰だと思っております。皆様にも感謝を申し上げたいと思います」


 会場が拍手で応えた。


「本日はごゆるりとお過ごし下さいませ」


 そう言って、達彦が頭を下げると、会場は大きな拍手でそれに応える。続いてしゃべるのは愛海だ。


「ビンタの特訓を経て、突っ込みを習得した愛海です」


 会場が笑いに包まれる。


「先ほど少し障害者という単語が出てきたので、私の方で少しお話しさせて貰います。かくいう私も障害者としてのレッテルを貼られ続けて参りました。それはひとえに他とは違うという意味合いでのことだったと思います。何が違かったかはここにいる皆さんにはおわかりだと思います。私はひたすらに白馬の王子様を追い続けて来ました。私が障害者とされたのはその一点にだけであり、また私自身その一点しかない自覚はありました。のめり込んでいた。そう言う表現をしても良いかもしれません。そんな状態の自分にとっての転機は、二十五歳のとき、同級生である美佐雄さんに出会えた時でした。その時私は美佐雄さんにこっぴどく振られてます」


 ふふふっと笑うのは愛海だけで、美佐雄は他からの視線を感じて堅くなる。


「振られて気付いたんです。自分は何でも手に入ると思ってたと。ただそれも、それまでの人生がありますから明確にわかったのは最近でしたが・・・・・・」


 愛海のそれは一種の懺悔のようでもあり、誰も何も反応出来なかった。


「思えば、私は大好きなおじいちゃんに何でも貰っていました。美味しいお菓子も、遊ぶためのお金も、白馬の王子様を見つける手段も。唯一くれなかったのは白馬の王子様その人だけでした。いえ、達彦の話にもあったように、おじいちゃんはそれも用意していてくれたんだと思います。亡くなる前の深夜に少し話したのを覚えています。最後までは聞けませんでしたが、だが、白馬の王子様は、と言ってました。きっと続きは近くにいる、だったと思います。そんなおじいちゃんにご冥福と感謝を私からも送ります」


 ここまできてやっと会場が拍手を返した。愛海はその拍手を浴びるように目を瞑って受けている。


「障害者という枠組みはあるべきだと言うことは理解しています。ただ、私の人世における障害者という言葉は悪口以外のものではありませんでした。自分と違うから障害者だというのは幼稚だと思います。障害者は障害者なりに頑張って生きているし、努力もしています。一人の人として対等に生きているのです。それを弱者のように扱うのは馬鹿にするのは不当だと思います」


 その通りだとどこからともなく声が出てくる。


「現に私は海よりも深い愛を手に入れました。この幸せはもう格別なものです。だから、障害者と罵られた私達からの宣言です。私達は人並みに以上に幸せになりますし、社会貢献もしていきます。そこにいるのはもう、あなた達と同じ人間なのだと。どうか、私達を温かく見守って下さることをお願い致します」


 愛海がそう言って礼をすると、割れんばかりの拍手が湧き起こる。たって拍手をする者もいた。美佐雄も立っている。その拍手は愛海が着席した後も暫く続いたのだった。


深い深い愛を知るため

私の冒険始まった

深い深い海の底来て

愛の塊見つけたけども

最初は気付かず知らんぷり

他にも見つかる愛は偽物

私はもう一度戻ってきて

その塊を持って帰った

大事に大事に持って帰った

磨いてみるとそれは宝石

私は身につけ

宝物にした

太陽の下

きらきらきらきら

私を眩しく

彩った

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黄昏が変わる頃 桃丞優綰 @you1wan

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