幕間 逃亡者

 チャリング・クロス駅発ドーバー行きの列車内――。

 二人の男が向かい合わせに座り、発車を待っていた。

 一人は小ぶりの丸い眼鏡をかけた壮年の男で、アッシュブロンドの髪灰色がかった金髪に青みがかった灰色の瞳をしている。もう一人は黒髪で二十歳ぐらいの青年。壮年の男は目を細め笑顔で青年を見つめているのに対し、青年は窓の外を黙って見つめていた。


「随分と浮かない顔をしているじゃないか、ヘンリー」


 壮年の男は目を細めながら言った。

 ヘンリーと呼ばれた青年は固く結んでいた口を開き、背筋をピンと伸ばした。


「いえ、エヴァンズ教授とスチュアートにはとても感謝しています。ただ……」

「ただ、何だね?」


 ヘンリーは首を横に振り、「何でもありません」と答えた。


「まあ、無理もないさ。親と子、があればこその悩みだろう」

 そう言ってから、壮年の男――エヴァンズは不敵な笑みを浮かべ、言葉を続ける。

「そう、血の繋がりだ」


 含みを持たせたような笑いを浮かべるエヴァンズを見て、ヘンリーはごくりと唾をのんだ。

 エヴァンズは立ち上がり、ヘンリーの肩を叩く。


「君にはもうひと仕事してもらうよ。ヘンリー」


 ヘンリーは無言のまま小さく頷いた。

 それからまもなく、列車は辺りに大量の煙をまき散らし、轟音とともに駅を発車した。


Catch me if you can私を捕まえられるものなら、捕まえてごらん, Mr. Mayerマイヤー教授.’

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