■menu15:「いらんわ妖怪とトマト小僧」

真夜中の台所。

闇の中を薄っすらと浮かぶエプロンの結び目。


トントンと。

柔らかな包丁の音。


ハミングのような。

透明な歌声。


「そういうのぉ・・・・」

「いらんわぁ・・・・」


窓の外には大きなお月さま。

だが、涙で滲むマダムには輪郭がぼやけている。


ポタリと落ちるものは。

玉ねぎのせいだと。


「そういうのぉ・・・・」

「いらんわぁ・・・・」


ハミングは続く・・・。


人差し指で拭って。

もう一度。


トントントン・・・・。


「そういうのぉ・・・・」

次のフレーズを低い声がさえぎった。


「トマトがなくてもぉ・・・」

「えっ・・・?」


振り向いたマダムの肩に、そっと置かれた温もり。


「うまいもんだねぇ・・・」

耳元で囁くような、旦那様の優しい歌声。


小鳥家の台所は、愛で包まれるのでした。


※※※※※※※※※※※※※※※


「新吉っつあん・・・・」

「へい・・・・」


「何や、大丈夫みたいや・・・人力車、出したってぇ・・・」

「へい・・・・」


無人の田んぼの間の道を、人力車がカラカラと。

眩しそうに夜空を見上げたジジイ(誰?)はそっと、呟いたのでした。


「月が、綺麗やなぁ・・・」


だから、誰だってば!



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