第30話 『一蓮托生~蓮華の下で結ばれて~』の裏話 その3 倉上義巳の話など

 本編に入る前にお断りしておくことがある。

 「一蓮托生シリーズ」の作品、3作品についてタイトルの年号を漢数字に統一した。今後の解説では『令和二年、それぞれの秋』『令和四年、おじいさんの贈り物』『令和六年、桐の小箱』の表記で語らせていただくのでご了承いただきたい。


 今回は追加キャラクター、倉上くらかみ義巳よしみの話をしたい。

 高橋たかはし海桐かいどう浅草橋あさくさばしに服飾品卸問屋「ファッション・カイドウ」を開店するという設定は、『令和四年、おじいさんの贈り物』執筆時に追加された。このため、海桐の修業先の店として考えたのが、浅草橋の「倉上商店」である。

 店主の倉上義巳については、「まつり」の常連客としても重要な役回りをしてもらった。『一蓮托生』では「まつり」の客については京極きょうごくたかしの描写しかなかったが、倉上と戸祭とまつりの会話で当時のニュースに触れたり、もう一人の追加キャラである大口おおぐち徳之介とくのすけと倉上の橋渡し役にかつらがなったりと、話の舞台を広げるのに大いに役立った。


 倉上義巳と妻のナカだが、義巳よりナカが大柄な設定になったのは、私の母方の祖父母をモデルにしたためだ。祖父は背が低く、体格不足で兵隊になれなかったと生前語っていた。高橋海桐は自分が小柄なことを気にしており、同じく小柄な義巳が親近感を持つというきっかけになってもらった。なお、義巳がはげ頭なのは、Oさんが描いてくださったイメージ画からである。

 倉上夫妻には三人の息子がいたが戦死し、長男の妻と子どもも疎開中に死亡したという設定だ。人手がない分を補うため、配達に三輪オートを使っている。芝原しばはらあおいの家出の手助けをするというのは、執筆中に思いついて追加した。

 倉上が海桐に語る商売学は、資料として読んでいた自叙伝で、雇い主が主人公に語る商売人の心得からヒントをもらっている。


 倉上が大口に斡旋するオキュバイトジャパンのうちわ作りだが、オキュバイトジャパンの表記をする指示がGHQから出たのがこの時期だったので、時代背景を語るいいエピソードだと思いとりあげた。当時の土産物などをネットで画像検索し、出てきたうちわの絵が着物の女性や菖蒲など日本らしい雰囲気だったので、採用させてもらった。


 「倉上商店」は倉上夫妻が亡くなった後閉店したが、その跡地に現在の「ファッション・カイドウ」のビルは建っているという設定になっている。


 次回は『一蓮托生シリーズ』に最近追加された作品について語りたい。

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