第6話 レクリエーションの準備

 その後、冬夜は美優と「20時に多目的ルームに集まる」という約束をした。

 その通りの時間に、作業で使う材料などを多目的ルームに持って行く。すると、冬夜の予想に反して既に何人かの生徒がそこに集まっていた。


 冬夜が思っていた以上に、多目的ルームは結構な広さがある。これを疲れ切っている冬夜が1人でやっていたら、相当時間がかかっていただろう。

 冬夜が入り口付近でぼーっとしていると、美優がそれに気付き、「早くこっちに来て」と急かしていた。


「何でこんなに集まってんの?」


 冬夜は、てっきり2人でやると思っていた。それ故の質問である。


「人手が足りないんでしょ? だから集めたの」


「そっか…ありがとう。それより足は大丈夫なのか?」


「い、いいからっ。 早くやるよ!」


 美優が集めた人手は女子ばかり。

 同じ班である石神恵美と田村由里香、そして小林春香こばやしはるか日村菜月ひむらはづきというメンバーだった。

 その内、葉月は冬夜が来たことに気付くと、彼に声をかけた。


「よう、まめ。なんか大変らしいじゃん」


「ひむか…珍しいな。こういうの嫌いだろ? 今日の自由行動ですら参加しなかったって聞いたぞ」


「ま、親友の助太刀くらいはするさ」


 菜月は冬夜の親友であり、心を許せる人物の1人だ。いつも長い髪の毛を一つにまとめていて、身長は170㎝ある冬夜よりも少し高い。彼女には男勝りという言葉がよく似合う。その性格と鋭い目付きのせいで、クラスでは浮いている存在だ。

 裕樹とも仲が良く、1年生の頃は3人でよく遊んでいた。菜月が美優と同じ班なのは、「余ったから空いているところに入れられた」という理由らしい。


 ちなみに、「まめ」というのは冬夜のあだ名である。もちろん葉月しかその名で呼んでいない。

 由来は、真面目で眼鏡をかけてるから「まじメガネ」、それを略して「まめガネ」、さらに略して「まめ」、だそうだ。原型はほとんど残っていなかった。


「…あんたたち、仲良かったんだ」


 美優は冬夜に訪ねたが、それに答えたのは菜月だった。


「1年の時に隣の席でな、まめはなかなか面白い奴だぞ?」


「やめてくれ、ひむ。そろそろ始めよう。とりあえず、この紙を見て作業にあたって欲しい」


 残っていた仕事は、明日の夜に行う予定のレクリエーションの準備だ。

 多目的ルーム内の飾り付けや席の準備、司会進行の原稿作成など、やることが多い。

 冬夜がその内容の説明と役割分担を指示していると、不意に多目的ルームのドアが開いた。


「やじさん、手伝いに来たよ」


「俺たちも来たぜ」


「遅れてすみません」


 1人は裕樹、後から来た2人は2組の実行委員で、平塚来人ひらづからいと七海雪菜ななみゆきなである。


(ありがたい。これなら何とか終わりそうだ)


 冬夜は美優の人望に、改めて感謝をするのだった。





 西宮美優



 私は恵美と由里香、それから春香と日村さんを集めて、その後に2組の実行委員と一応染野くんにも声をかけた。

 どうやら、矢島は2組のタクシーの連絡とかも手伝ってたみたいだ。時間がないなら手伝わなければ良かったのに。



 って言うか、時間がないって言うから急いだのに、矢島はあまり焦ってないんだけど…。


 ほんと、なんなんだろあいつ。


 どうでも良いけど、日村さんと矢島は仲が良かった。通りで、あの日村さんが快く引き受けてくれたわけだ。







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