第38話 奇跡は続く

 奇跡はそれだけでは終わらなかった。

 仏様の起こした奇跡は続いていたのだ。

 

 城下町より戻ってきたグナシの話によれば、サワートさんと同居している祖母はアルベルトを救ってくれた薬師如来に毎日手を合わせていた。

 

 ある時「この私の足も治していただけないでしょうか」そう願って薬壺を開けた。馬車の馬に蹴られてから足を悪くして杖が手放せなかったのだった。そこには同じく赤い薬があった。

 まさかと思い飲むと、次の日足は完全に治っていた。

 杖もなく、自由に歩けたのだった。

 

 そのサワート家の奇跡は近所で評判になり、仏像を貸してくれという家が後を絶たなかった。

 仏像を貸したのは若い夫婦だった。

 やっと子供を授かったのだが、稼ぎ頭である夫が仕事中の事故で腕を損傷していたのだ。

 奇跡を信じて仏像を借りると、手を合わせた。薬壺の中には薬が入っていた。それを飲むと翌日には治っていたのだ。そして彼は仏に手を合わせて、感謝を伝えた。


「そんでさ別の家にも貸したら、また病人が治ったって。もう近所どころか城下町でも評判になり始めてるぜ」

「やっぱり聖女さん何かしたって事はないよね?魔法・・・とか?」


 ハラヘリーナさんが遠慮がちに言うが俺は首を振る。


「グナシも見ただろうが、ごく普通の彫刻だったでしょ。それに魔力があるグナシなら魔法がかけられているかどうかわかるんじゃない?」

「そう言われても俺一つ星だし・・・ただ持った感じはポワゾランではなかったんだよな」


 ポワゾラとは魔法が込められた武器や物のことだ。

 魔力を持った者がポワゾラを持つと、力が発動されるとか。


「それにサワードさんたちも魔力ないんだよな・・・」


 ラベンダーに聞いても、今までこのような話は聞いたことがないってさ。

 全くどうなっているのだ。

 ただ一つ分かったことは、異世界であっても誰であっても仏の慈悲は平等なのだ。

 いつも我々のそばにいて、救いを求める者に手を差し伸べてくれる。

 私はそれが分かって、とても心があったかい。


 この奇跡を聞いてから、俺は再度仏を彫ってみた。

 と言うのも、実は仏像の奇跡が評判となり、多くの人から「これはどこで手に入る」「私にも彫ってくれ」という依頼が殺到したそうなのだ。


 それもあり、再度彫ってみようと思ったのだ。

 3日かけて薬師如来坐像を彫った。

 少し離れたところから仏像を観察する。

 大きさはこの前の薬師如来の仏像よりやや小さい。

 うむ、よい出来だ。


 小さい分、一体を彫るのに時間をかけることができた。 

 時間制限のある中で彫ったあの仏像よりも細部まで細かく、繊細に仕上げることができた。

 丁寧にお顔を仕上げたので、仏の美しさまを表現できたのだ。

 あとは、台座の裏に「アン阿弥陀仏」と彫るだけだ。


「いったーーーーい!!!!」


 耳をつんざくラベンダーの悲鳴。

 何事だ?どうした? 

 飛び上がって声の元へ駆け寄ると、ラベンダーが反ベソをかいていた。


「お昼ご飯を準備してたら指切っちゃいました?」


 差し出された左手の人差し指が流血していた。

 慌てて、手拭いで傷を覆う。よく見ると傷は浅く小さかった。


「オーロラ様痛いです」

「大丈夫よ、見たら傷は小さいわ。これなら後も残らないと思う。ただ念のため薬を塗っておいた方がいいわね」


 棚の上にあった薬をラベンダーの手に塗り包帯を巻いた。

 出血が止まるとラベンダーは冷静さを取り戻した。多分血が怖かっただけなんだろう。


 あ、そうだ。

 ラベンダーと一緒に先ほど掘り上げた薬師如来の前に立つ。


「あら、これもまた素敵な彫刻ですね。この前より可愛いサイズ」

「ありがとう。ねえラベンダー。ちょっと手を合わせてみてくれない?」


 俺は閃いたのだ。俺の彫った薬師如来像に万病を治す力があるのなら、ラベンダーのこの指も綺麗さっぱり治るのではないかと。

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