第22話 賄賂

 次の日、門のところでグナシとにはグナシとラベンダーが何やら話し込んでいた。


「見て下さい」


 グナシの足元には彼が運んできた食料が置いてあった。


「この人参ちっちゃいし、トマトは痛んでるし。ソーセージなんて2本だけですよ?」

 

 確かに、置かれた野菜は鮮度がいいとはいえない。この前に配給された牛乳は変な匂いがして破棄するしかなかった。


「もっとまともな食料はないの?」


 ラベンダーが口を尖らせる。


「無茶言うなよ。俺だって上から命令されて持ってきてるだけなんだから」


 それもごもっともだ。グナシにそんな権限はないだろう。


「あんたもしかして、途中で中抜きとかしてないでしょうね。段々減ってるんだけど」

「俺を疑ってるんかよ。嘘だろ。そこまでせこかねーよ」


 だが。

 ラベンダーの言うように食料は段々減っているし、質も悪い。正直食べるのに困るほど。


「ねえ、グナシ。上官に話だけでもしてもらえない?」


 グナシが無言で手のひらをこちらに向ける。


「なんか欲しいの?」

「たっくコレだからお嬢様は、金。金だよ、融通きかせて欲しかったら金に決まってんだろ。賄賂だっつーの」


 金って言われても、俺はラベンダーは顔を見合わせる。

 幽閉の時に持ち込めた金はわずかだ。


「いいか、世の中な何か特別待遇して欲しかったら、賄賂っつーのが必要になんの。軍の所属先だって金次第だぜ」


 なるほど。地獄の沙汰も金次第、と言うことか。


「ここが街中や宮殿の外ならな。こっそりと客でも取らせて稼がせるんだけどな」


 きゃ、客を取るだって。

 つまりその・・・男の相手をするって意味か。

 ラベンダーは怒りのあまり言葉になってない様子でワナワナと震えている。


「まっまさか、あんた・・・客って・・・私に・・・娼婦の真似を・・真似を・・いや・・・だから・・・お金・・・」

「ん、そう。そりゃ売るもんなければ金を稼ぐしかないもんだ。あんたも若いし、それに元聖女様は超がつく上玉だ・・・っていってーー」


「何が上玉よ、無礼にも程があるわ。仮にも元国の聖女よ」

「だからって殴ることねーだろうが。大体そっちが頼んできたら、方法を教えてやっただけだろうが。金がないなら稼ぐ。それ自然の摂理あるよ」


 ラベンダーとグナシがぎゃーぎゃーと騒いでいる横で、うーんと頭を悩ます。

 悔しいが、グナシの言う通りだ。

 どこの世界でも便宜を図ってもらうなら、賄賂は必然か。

 だけどな、どーやって金を作くればいい?

 ここでは外部との接触は断たれているし、体を売るのは避けたい。

 借り物の体でもある。欲に塗れた男達に身体を触れさせるのはオーロラに申し訳が立たない。


「そうだ、針仕事は?それならここでもできるだろ?」


 針仕事?手先の器用さには自信はあるが、やったことないな。


「ラベンダー刺繍はできる?」

「いえ・・・簡単な針仕事はできますが、売り物になるような刺繍なんてとても・・・」

 

 二人で黙る。


「なっさけねーな。若い女が二人ろくに刺繍もできねえなんて。じゃ金がないら諦めんだな」


 ぞんざいに言い放つと、門の外で座り込んだ。首をぐるりと回し、いつものようにぼんやりと見張りという名の休憩に入る。

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