第8話 オーロラの記憶

 疲れた・・・。

 入浴後、ラベンダーに支えられながら、よろよろと床に着く。

 献身的で優しいラベンダーは湯あたりだと思っていたようで、特に気にしている様子がなかった。

 結局ダメだった。己の身体一つまともに見れないとは・・・。前途多難である。


 しばらく休むと冷静になり頭が働き始め、今起きている状況を一つづつ整理していく。


 俺はあの時死んだ。そして目覚めるとなぜか奈良ではない見知らぬ世界で女人の姿で目を覚ました。

 なぜだ。

 皆がオーロラという娘を知っていて、俺はオーロラだと信じて疑っていない。


 もしかして、俺は死んでこの聖女オーロラに生まれ変わったのか。

 いや、そんなことがあり得るだろうか。

 だとすると一つの疑問が残る。


 このオーロラという娘の魂はどこへ行ったのだ?

 俺が目覚めて消えてしまったのか。

 否、オーロラの魂は今眠っている。

 そう考えると1番しっくりくる。


 時折だが、俺は初めて見た知らない世界のことがわかることがある。

 レモンという、聞いたこともない果実を紅茶に入れると俺は知っていた。

 そしてリース王子への思い。

 オーロラの魂は消えてない。眠っているだけだ。

 だが、なぜ転生した俺の魂が目覚めたのだ。

 過去の記憶を全て残して。

 


 徐々にだが、オーロラの記憶が呼び起こされつつあるのか、日常のことは不自由しない程度にわかるようになっていた。

 例えばマカロンというのが、甘い菓子。

 ベッド、ドレス、シャンデリアにシャンパン・・・。周囲にある単語が少しづつだが、鮮やかになる。


 まだ療養中なので、ほとんどの時間を部屋の布団の上で過ごしていた。

 布団と言っても、奈良の煎餅布団とは違い、一人で寝るには持て余すくらい広々としている。


 3人寝ても、だいじょーぶ!!

 そんぐらいでかい。


 部屋の豪華な調度品に専属の侍女。なんとも聖女とは好待遇なのだな。


 俺は暇を持て余していて、あれこれとラベンダーに尋ねていた。


「聖女って4人ときいているけど。後の3人はどうしているの?」

「他の聖女様も宮殿で住まわれてますよ。少し部屋は離れておりますが」


「今度挨拶に伺った方がいいかしら?」

「うーん、それはどうでしょう」


「というと?」

「聖女様の中にはあまり人と人との接触を避けておられる方もおりますので」


 そうなのか。


「南と西の聖女様はほとんど人前には出ませんし、移動する時もベールで体を覆ってますので、素顔を見た者はほとんどおりません」


 もちろん、ラベンダーもないと言う。

 ラベンダーの話では聖女同士あまり横の繋がりはなく、共同で行う作業もないので気にする必要はないとのこと。時折、晩餐会や国事の際に顔を合わせたりすることはあるようだが、特に仲間意識もなく、思ったよりもあっさりとしているようだった。


 これは今の俺には朗報だった。この状況では接触する人間は少ない方がいい。


「それで蓮の花ってどこにあるの?」

「金の蓮の花ですか」


 聖女が祈りを捧げると、花開くという伝説の蓮の花。


「わかりません。この宮殿のどこかにあると言われてますが、その泉の場所を知っているのは一部の王族と管理している大魔道士だけです」


 極秘ということか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る