第2章

25.夏休み。

 体育館にも四季の移ろいはある。夏になれば生徒たちが毎日部活をしにきてにぎやかだ。風通しをよくするため解放された扉からは体操靴のキュッキュッという音が気持ちいいくらいに響いてくる。


 卓球部、バドミントン部、バレー部、そしてバスケ部がいた。それぞれ仲良くローテーションを組んで体育館を使っているのだ。

 

 奏歩は練習時間を増やしたいと交換日記で願いでていた。村上先生も同意見だったようで、それなら夏の泊まりこみ合宿を決行しようと、生徒らの交換日記に提案された。


 二人は県大会優勝にむけ、このままでは足りないと危機感を募らせていたのだ。


 一方他のメンバーたちは多少の違いこそあれ、バスケットボールに飽きていた。確かに面白い。勝てる嬉しさを知った。しかし男子Bチームにまかりなりにも勝利した事で、一旦目標は達成された。それまでの根を詰めたトレーニングや1分1秒を争う走り込みに嫌気がさしてきたのだった。


 合宿との提案をきいて、凛のバスケアレルギーは沸点を超えた。


「合宿なんて。朝から晩までドリブルシュートランで気が狂いそう。」凛は雄に打ち明けた。


「私バスケもういいかもしれない、飽きてきた。」雄はうんうん頷いた。


「村上先生の練習は尋常じゃないよね。まるで何かに追われてて、それから逃げるみたいに必死じゃない? そこまで県大会優勝したいとも思わないしさ。」


「そうそう当事者がおいてきぼりなんだよ。」


「私もうすうすそう思ってた。」麻帆が加わった。


「プロっぽい技をどんどん教わるけど私たちただの中学生だよね。奏歩はともかくさ。バスケに全青春捧げるつもりはないのに。」


「優勝ってそんなに良いもの?美味しくないよね。毎日走り込みしてまで目指したいもの?」


 信子は黙って聞いていたがポツリと会話に加わった。


「私実は足が痛いの。」 


「え。」と驚きの声を上げる面々。


「信子それやばいよ。」と凛。


「秘密兵器が足痛めたんじゃ洒落にならない。」


「やっぱ練習やり過ぎなんだよ。」と雄。


「先生にいった?」と麻帆。


「うん。交換日記にかいた。」


「うそ、じゃあ先生知ってるの。」


「うん。」


「それでまだ走らすっておかしいよ。」


「骨折れてるかもしれないのに。」


「先生は指導者としてどうなの?」


「信子、これからは走るなよ。絶対。安静だよ、病院いきな。」


「あ、でも少し痛いだけでまだ走れるから。」


「駄目、絶対駄目。」


「中学のピチピチで健全な体をなんだと思ってんだろう。」


「村上先生に信子が壊されようとしてる。」


「私たちチームが守らなきゃ。」


 信子は休みをとって整形外科と整骨院へいった。結果は、疲労骨折。骨にわずかにヒビが入っている状況だった。


 またメンバーは交換日記を荒らしていた。


「バスケに飽き飽きしました。夏休みくらいはバスケから離れて好きな事がしたいです。」と凛。


「信子が骨折したみたいに今のままでは全員故障します。時にはメリハリが必要。私もしばらく休みます。」雄。


「夏休みを下さい!」麻帆と、皆は思い思いの文を書き連ねた。


 生徒らの猛反対をうけ、村上先生は練習を中断するといわざるを得なくなった。生徒らの最初の反発だった。伊東先生は、あれあれと困り顔。でも女子たちの決定に反対はしなかった。


「前代未聞ですよ。」村上先生はいった。


「夏休みといえば走り込みの季節。そんな時にまる1月休ませるなんてのは普通のバスケ部じゃありえない。私は民主主義でいくので多数決の結果こうなりましたが、必ず体力の低下を招きます。あとで負けて悔しいのはあなた達なのよ。バスケから離れてどうせぐうたらするんでしょ。嘆かわしいわ。秋の一年生大会でボロボロになっても知りませんよ。」




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