24.奏歩。信子。
村上先生は選手5人を集めてこう語っていた。
「バスケは、ディフェンスとオフェンスが交互に与えられるルール。つまり、順調に得点していれば相手チームとは永遠に同点なの。でも私たちはどこかでミラクルを起こします。攻めきって得点し、あとは守りきって相手にプレッシャーをかける。そうすると自然と4得点開きます。あとは逃げ切る、全力でね。男子Bチームとのミニゲームは、体力の差を考えて5分1本勝負よ。泣いても笑っても5分きり。全力でいくわよ。倒れるまで走れ」
やはりまずはチームを引っ張る奏歩が仕掛けた。奏歩は、あなたならできる、と村上先生に言われた技を披露した。ドリブルでまっすぐ切り込んでいき相手がきたら、背を向けてくるっとターン、ボールをキープしたまま360度プラス半歩分ステップを踏みシュートモーションにはいる技だ。
つまりボールキープだけでなく、一回転してさらに踏み込む体幹のバランス力も求められる。シュートは落としてかまわない、と言われていた。奏歩が、回転したらすぐさま信子がリバウンドに入るから、と。雄が敵をスクリーンアウトし、信子は左下にいる。
シュートは右手を使って小さい振り幅でわざと落とせ、とも。奏歩は早速得意なドリブルで回転し、シュートまで持っていった。ポロッと溢れたボールを信子がリバウンドシュート。これが決まった。
落としてかまわない、と言われているためか奏歩はのびのびと振る舞えた。ドリブルでBチーム4番を翻弄し、何度かこのターンシュートをしかけた。
4回のうち、1回は奏歩が奇跡的にシュートを決めあとの2回は信子が決めた。残念ながらこの作戦は男子に徐々にバレ始め1回ははたかれた。しかし奇襲というのに十分な役割を奏歩と信子は果たしたのだった。
他のメンバーは、奇襲の成功で士気があがった。私たちはやればできる。そんな気持ちになったのだ。程よいリラックスはシュート率を上げまた体力にも影響する。村上先生はベンチで足を組み直した。伊藤先生は逆に采配を男子たちに全て任せていて村上先生側につき、ニコニコと女子を見守っていた。
凛は右にフェイクをいれてから大きく相手の手のさらに下を通して左へパスするという地味だが効果的な技を自分の力で習得していた。このパスが通ると相手は半歩僅かにフェイクにかかっているため凛自身が身軽になるのだ。
フェイクパスをして中に走り込むと、フォワードの麻帆からパスが入る。すかさず45度の位置で振り向きシュート。なかなかいい感じでボールはネットに吸い込まれた。この時点で女子8得点対男子10得点。勝負はまだわからない。
ガードの奏歩が右へ攻める。麻帆がいた。麻帆は奏歩から手渡しでボールを受け取りトップへドライブ。凛がちょうどディフェンスの裏をかいてゴール下でフリーだった。パスがとおる。シュートがきまる。
男子がこれはどういう訳かと訝しみはじめた。素人のはずの女子たちに翻弄されていやしないか? 彼女ら、なかなかどうしてうまくないか? 俺らはBチームだぜ。なめてもらっちゃこまる。点差は2点とせばまらない。だが目に見えてディフェンスのあたりが強くなってきた。
これじゃあセンターポジションがキープできない。ボールは自然と外をうろつくようになってしまった。奏歩のスリーポイントが入らないのはバレていた。しかしこの流れも、村上先生の作戦のうちだった。女子たちは、来たと思った。
5人でボール回しをする。ガードフォワードセンター関係なくスリーポイントラインをミートしてトップでボールをもらうのだ。奏歩、麻帆、凛、雄と4人回り続けた。ディフェンスが崩れたのが凛にはわかった。センターの信子のディフェンスが、次に信子がトップに立つだろうと先読みしてあがったのだ。
人ひとり分スペースがあいた。凛は飛び込むかと一瞬思ったが麻帆のほうが早かった。麻帆がセンタープレイで中に入れてゴール下シュートをきめた。男子たちは走り損だ。意気をくじかれたか男子たちがミスをした。得点は同点。
奏歩がドリブルでまた中へ突っ込む。男子たちはもう同じ手は喰らわぬと中を守って固めた。ところがそのスキに信子はまんまと合わせでスリーポイントラインへはけていた。奏歩からうしろパスが信子へととおり、男子たちがえ? となるなか信子は悠々ときれいにスリーポイントシュートを決めたのだ。
これで3点女子がリード。あとの作戦は無かった。ディフェンスで、守って守って走りきる。のこり20秒を女子はなんとか逃げきった。15対12、女子の勝ち! 村上先生は静かにチームに拍手をくれた。
「お見事、見事、いやあやられたやられた」
伊東先生がやってきた。
「女子は素晴らしいですね。皆さん作戦勝ちです。こりゃあもしかして化けるかもしれない。女子の皆さん、大会での目標はなんですか?」
「近畿大会優勝です!」
村上先生と奏歩がハモった。え? となる凛や雄や麻帆に信子。近畿大会に出場するのさえ夢のまた夢なのに。この人たちは一体何を。
「いけるかも、しれませんねえ。本当ですよ」
伊東先生の言葉は重みがあった。とはいえ、と伊東先生。
「まだ5分ですからね。これから、4クォーター走り切る体力や、敵が実力より上だった場合に持ちこたえる精神力も鍛えていってそんはないでしょう。うちの男子たちにもとても良い影響でした。悔しがっていますよみんな」
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