3.三年生。ギャル。

 小学校よりも一回り大きい校舎の長い渡り廊下を体育館へとスタスタ歩いていく凛。歩いている前方に頑固者の奏歩がいたので凛は近寄りわざと上履きの踵を踏んだ。


「っつ!」


 踵を踏まれ上履きが脱げてあたふたする奏歩。凛は小さくガッツポーズした。小さな意地悪は山程。ちびの奏歩。やーいやーい。凛は日頃の憂さ晴らしにと、分かりやすく奏歩を虐めていた。


「いよいよ部活始まるね」

「そうだね。ワクワクする」


 凛の親友のるみが追いついて話しかけてきた。るみは奏歩を積極的には虐めない。だが凛を嗜めようともしない。奏歩は多くの女子から遠巻きにされ見てみぬ振りを貫かれていた。仲良しは誰もいない。それでも奏歩は泣かなかった。


 中学に入ってまずのイベントは部活紹介。どの部も部員集めに必死でかっこいいとこを見せようと張り切っている。体育館に集まる一年生。笑顔を振りまく三年生。共にワクワクの境地にあっていざ勧誘の儀式が始まろうとしていた。


 なんといっても花形は男子バスケ部だった。毎年県大会に優勝している強豪である。顧問は数学担当の伊東。凛の小学校で女子に大人気だった男子綾瀬くんはバスケに入ると宣言していた。他にもマネージャー志望の一年生女子は5人もいた。


 女子バスケ部キャプテンをみるとスラッとした細身に茶色く染めたストレートな髪をミディアムにカットしている。クリクリした目と表情豊かな顔が一見魅力的だった。だが実はその性格は誰よりもきついと有名である。凛は予備知識として風の噂で聞いていた。


 女子バスケ部のパフォーマンスが始まった。

 一華と名乗ったキャプテンはナノと呼ばれた副キャプテンにパスをだした。ナノはぽっちゃり気味のガードだった。眉毛が極薄で般若みたいで、顔のいかつさでは女子の中で1番だ。


「めっちゃ一年がみてる。うける」


 ナノが笑って、次にパスしたのはフォワードの有佐。ロングヘアをきちんと結った女バスのなかで1番かわいい女子だった。


「唯、シュート」


 メイクの濃い真っ黒なひとみのショートカット女子にパスが回った。身長が高くどことなくクールな風情をした唯がシュートをらくらく決めるとニ年らしき女子がパチパチと拍手した。ニ年はたった1人だった。


「麻帆」


 呼ばれていち早く給水ボトルを渡しに来た。


「有佐はスポドリがいい」


 渡されたのはお茶だったのか有佐が少し抗議する。ぽっちゃりしたナノもスポーツドリンクをのんでいる。一華が、汗を拭く。


「15本中9本入ったね。まあまあじゃん」


 一華が労う。唯は最後のスリーポイントシュートを決めると輪に戻ってきた。唯の一挙一動には固定ファンがいるのかきゃーという歓声があがっており、唯は手を上げてそれに応えていた。


 彼女たちは見た目、言動ともに正真正銘のギャルだったが大半の生徒の予想に反して部活の成績は良い。県大会出場の一歩手前、地区予選の3位まで女子バスケ部は這い上がっている。


 だが性格がキツく見た目も派手で、目をつけられたら生きていけなくなりそうな雰囲気は変わらない。一年生で女バスの希望者はほとんど居なかった。


 

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